ブータンとも協働して、持続可能な幸せをつくる学びの探究を続けています
一人ひとりと地域社会の持続可能な幸せをつくるために必要な学び・教育とはどのようなものでしょうか。
この問いを探究するべく、私達は、2022年1月から、JICAの草の根技術協力(地方自治体提案事業)として、海士町と共に、ブータンで持続可能な幸せのためのPBL(Project Based Learning;プロジェクト型学習)を共創するプロジェクトを開始しました。
日本とブータン、それぞれの知見をつなぎ、これからの教育を共に創っていく。持続可能な幸せは自分だけでなく周りも、今だけではなくこれからもという意味で、「持続可能」という言葉を使っています。
ブータンとの協働でつくるPBL for GNH
この前身として、2018年度~2019年度には、文部科学省 日本型教育の海外展開推進事業(EDU-Portニッポン) でブータンとの協働を始めていました。
ブータンとのプロジェクトは、ブータンのGNH(Gross National Happiness;国民総幸福量)に向けたPBLということで、PBL for GNHと名付けています。PBL for GNHとは、以下の3つの幸せの観点を含むプロジェクト型学習を意味しています。
・生徒が行うプロジェクトの目的自体がGNH(幸せ)に資する
・プロジェクトのプロセス自体が幸せな学びをつくっていくプロセスになっている
・プロジェクトの結果、生徒が身につける資質・能力が今・これからの幸せをつくる力になっている
さらに、ブータンだけではなく、日本でも同様のプロジェクトを進めながら、日本とブータンでの共通性やそれぞれの文化の違いによる独自性を明らかにしていきたいと考えています。
持続可能な幸せをつくる資質・能力に関する調査結果
2020年度には、幸福学の第一人者、前野隆司慶應義塾大学大学院教授にもアドバイスをいただきながら、持続可能な幸せをつくる資質・能力を明らかにすべく、アンケート調査を行いました。
(結果をお披露目したイベントはこちら。)
持続可能な幸せをつくる学びに関しては、次の5つの仮説を持っていますが、この③に関連して、どのような資質・能力が幸せと関連しているのかを検討するための調査です。
本調査では以下の項目について、アンケートを実施しました。
資質・能力に関する項目は、ブータンの「Educating for Gross National Happiness A Training Manual」、「OECD Education 2030」・「The OECD Learning Compass 2030」、弊財団が三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社と共同開発した「高校魅力化評価システム」等を参考に、PBLを通して育成を目指したい資質・能力を整理し、調査項目を作成しました。
幸福度に関する項目は、 Dienerによる「人生満足尺度(SWLS)」、前野隆司先生の「幸せの4因子アンケート 一般向け」、10段階の生活満足度を使用しています(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科ヒューマンシステムデザイン研究室のWEBページを参照)。
調査の概要は以下の通りです。
調査期間は、コロナ禍の緊急事態宣言が出されていた期間とも一部重なるが、心身の健康状態や人生満足尺度、生活満足度等が極端に低い状況にはなっていませんでした。
幸せの4因子の結果について、「ありがとう!」因子の項目の肯定的回答の割合が他より高くなっているが、公表されている結果とおおよそ同じような傾向が見られました。
資質・能力の項目について、因子分析を行い、以下の因子にまとめました。
具体的には以下のような項目が含まれています。
それぞれの因子得点と幸福度関連の指標の関係を見ると、以下のような相関がありました。
やや弱い相関になっているものもありますが、私達が育てようとしている資質・能力と幸福度には関係がありそうです。
4分類の資質・能力に関する自己認識の得点が、全て平均値より高い群を自己認識高群、全て平均値より低い群を自己認識低群として、幸せの4因子による幸せの形(各項目の平均値)を比較したところ、
・今の自分は「本当になりたかった自分」である
・自分は人生で多くのことを達成してきた
・私のこれまでの人生は、変化、学習、成長に満ちていた
の項目への回答において、差が大きくなっていました。
持続可能な幸せをつくる学びの実現に向けて
本調査結果について紹介したイベントで、弊財団代表理事の岩本が「どんな力が子どもたちの今をこれからを幸せにすると言えるか。」と質問したところ、前野先生から以下のようなコメントをいただきました。
来年度からは、「高校魅力化評価システム」でも、生徒や大人のウェルビーイングに関わる項目を追加し、学校・地域の関係者がその結果を見て対話しながら、その向上に向けて取り組んでいくことを支援していきます。また、より広い範囲で、資質・能力と幸せ(ウェルビーイング)に関する分析をしていきたいと考えています。
これらの取り組みについては、3月20日(日)14:40〜16:00にshiawaseシンポジウム内のワークショップでご紹介します。
ウェルビーイングな学びをつくっていきたい皆様、ぜひご参加ください。
引き続き、皆さんと一緒に探究を進め、持続可能な幸せをつくる学びを共創していきたいと思います。
(文責:R&D事業担当 奥田麻依子)