とんでもない沼にハマったーーそこは半地下のスナックだった。
私はスナックが好きな、いわゆる「スナ女」に分類される。
ただ、言わせてもらいたいのだが、相当スナック好きだ。スナック狂いだ。
普段は70歳のママが働く場末のスナックでチーママをしている。
カラオケで流れる昭和歌謡にはまりだし、それらを鬼リピし、休学して行ったカンボジアでは屋台を買って、路上で現地の人相手にスナックをして「この人何しとん」という謎な目を向けられ、何も知らず大統領の家の前の路上でスナックをしてしまい警備官にめちゃ怒られて急いで逃げたほどである。
そんな私は、ちょっと前までゲストハウスを営む、真っ直ぐキラキラ女子大生としてスナックと無縁でやっていたのだが、スナックにはまってからその沼からぬけだせないのである。
比較的昔から要領は良い方だったと思う。(いきなり過去)
転勤が多い家庭だった。新しい環境で、ルールを読むのが癖になっていた。
何がタブーなのか。〇〇ちゃんの好きな人は△△で、彼には自分から話しかけちゃいけない、とか、先生に良い顔しすぎると□□に睨まれる、とか。
そういう環境に適応する生存本能は磨かれ、だいたいいつもカースト上めのおちゃらけ担当に落ち着いていた。(全方位的にいい顔をし続けるのに、心地よさを覚えるサイコパスポジ)
とはいえ、一浪して入った大学には期待が大きかった。目指した大学に行けば、環境が変わると思った。「周りの様子を伺い続ける自分」が変われると信じていた。
ーーけど、大学の環境なんてそれまでとほとんど変わらなかった。なんだよう!結局私はその場のルールに、また適応しようとしていた。。
反動のように、色んなところへ旅にでた。
多分、浪人して勝ち取ったものが期待外れで腹が立っていたんだと思う。
でも、その旅が良かった。旅先で出会った人たち、特に宿主たちとの出会いに感動し、大学のある東京・国立に戻っては自分でゲストハウスを作った。
そんなある日、地元の人に連れられて飲みに行った先は、70歳のママが営む小さなスナック。
なんだここは…
衝撃だった。誰も気を遣いすぎず、自然体でいるこの心地よい空間。
ある人は歌を歌い、ある人は隣の常連と話し、そしてある人は話している人を見ている。
銭湯に似ている、と思った。みんな素っ裸なのに、誰ひとり恥ずかしがらないのだ。自分の今日あった情けない話もいいながら、他人に気を使いすぎない。全体として、ほかほかしているのだ。
ずるい。
ここじゃないと思って旅に出たのに。いつも通っている道の半地下で、こんな桃源郷があったなんて。
そんな動揺を隠せないスナック処女に、不思議なオーラをまとうママは容赦なかった。
「あなた来週から、働いてみない?なんか、ニコニコ楽しそうに飲んでるからさ…」
「んええええええ!?いやいやいや…!」
ママはどこまで考えていたかわからないけど、きっと昔から身についた自分の嫌いな治らない癖が、その時良い方向に転んだ。
そこから、ママの仰せのとおり翌週からスナックに立ち出し、どんどんスナックの沼へずぶずぶとはまって行った。
その出会いから2年。スナックのよしなしごとや、よしあるごとをそこはかとなく書きつくります。
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