持病

 明日には死ぬかもしれない肉体を抱いてくるのは、薄くて青い圧力です。

 痛みで軋む関節を掴んでくるのは、とろみのない月と星の影たちです。

 夜が明けたら見えなくなっているかもしれない眼球を口に含んでくるのは、濃淡羽織った緑色です。

 無数の赤い斑点で汚れてしまった肌へと口づけをしてくるのは、冷たさを囚えた透明です。

 真白にえぐれたほおの内側や陰部を舌で舐めてくるのは、鳴いてる虫の喉から垂れた、金属の音です。

 赤色や大量の水分を、いつ戻すか分からない腸管に、湿った息を吐きかけてくるのは、撹乱された天日です。

 いずれ鎖されるかもしれない血管を、指でくすぐり弄んでくるのは、雨垂れの子である、無数の無数の波紋です。

 今この瞬間にも燃え出しかねない神経を結んで、模様にして見せつけてくるのは、駆け抜けていくやわらかい弾力です。

 ただそれらを感じながら、今も息をしています。

 ときおり動けなくなる、この体で。

                               (了)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?