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ASDの記憶特性"カメラアイ"について
”カメラアイ”とは
カメラアイとは、文字通りカメラのように一瞬のできごとや情報を鮮明に記憶する能力を指します。
発達障害の一部の人々(特に自閉症スペクトラムのある人)は、このカメラアイの能力を持っていることが報告されています。
発達障害の児童を支援する会社のHPでこのように紹介されている。
自分自身の記憶特性について、最近までは「普通の人よりちょっとちがう」程度にとらえていた。しかし、仕事ができないほど気分の波の上下が激しくなって本格的に医師のもとへ通うようになってから、自身の記憶特性について考え直すようになった。
自分の記憶特性は果たして「ちょっとちがう」程度で済むものなのか。特殊な記憶特性が仕事や私生活で悪影響を及ぼしてはいないか。
具体例
暗唱ができる
幼稚園~小学校4、5年生まで、国語の教科書に載っているような文章を数回音読すれば、丸々そのまま暗唱することができた。思い出すときは、頭の中で紙面を思い出してそれを音読するという方式のときと、リズムや音で言葉を丸々覚えてしまう方式とがあった。
小学校低学年の頃はミュージカル劇団に所属していて、自分のセリフや歌だけでなく、他のメンバーの歌やセリフもすべて覚えていた。「どうしてそんな風に覚えられるの?」と親に質問されて、「頭の中で楽譜や台本や教科書を見返すの。読みたい部分にライトが当たる感じ」と答えた覚えがある。
小学校高学年あたりから徐々にこの記憶能力は弱まって、暗唱は少しずつできなくなっていった。
一度歩いた道を忘れない
どんな場所でも、一度歩いた道や自転車で走った道は一発で覚える。帰りは地図を見なくても同じ場所に戻ってこれる。
小学生~中学生あたりまではどうしてこれができるのか、自分でも説明ができなかった。しかし高校生あたりで、「どうも映像で建物の位置や道の形を覚えているみたいだ」と気づいた。
特に異質なのは、地元から遠く離れた東京駅や札幌すすきの周辺、横浜など、複雑な場所でも、数年越しに訪れても「この先を曲がればコーヒーを飲める喫茶店がある」というような細部まではっきり覚えていること。
ただし、渋谷のように「道そのものが消える」ような再開発が行われていると途端にこの能力は無効になってしまう。これには困る。
車に乗るようになって、情報量が徒歩と違って多すぎるからか、道を覚えられなくなったなあという実感がある。しかし、高速道路のように単純で分岐点が少ない道路だと、1時間半以上かかる道のりでも地図なしで行ける。
大学の後半は地元から大阪まで一時間半かけて通っていたが、名神高速道路→京滋バイパス→第二京阪道路→近畿道と乗り継いでいく分岐をすべて記憶していて、ナビ無しで大学に行っていた。
映像で過去の記憶が細部までよみがえる
フラッシュバックに近い。例えばキンモクセイの香りを嗅ぐとこのような記憶が瞬時に再生される。
従妹が産まれたので、どこかの産婦人科へ、みんなで見舞いに向かっている。大人数乗れる普通車を使用して、6人程度で一緒にいる。車を駐車場に停めて、トランクルームが開いていて誰かが荷物を出している。その後ろの生垣に植物がいくつか植えられており、あたりはキンモクセイの香りに包まれている。
お見舞いの後、近くにあったココスに行って、店員さんにお願いして誰かの誕生日を祝った。(ココスには今も、店員さんにお願いするとマラカスなどを持ち寄って踊って誕生日をお祝いしてくれるシステムがある)
このときの記憶はずいぶんと古くてデータが破損している。おそらく小学生で、中学年ぐらいではないかと思うが、ココスで誰の誕生日を祝ったのかが思い出せない。キンモクセイの咲く頃に生まれた親戚。
noteで公開している以下のような記事も、この記憶のように細部までよみがえるもののひとつだ。
気づき
やはりこうして振り返って考えてみれば、ちょっと普通じゃないなというのが第一に感想として出てくる。
昔、仰天ニュースでカメラアイのもっと精度が高い人の特集を見たことがあって、「自分はこんなに鮮明に覚えられないから、"カメラアイ"ではないな」と感じたのを覚えている。しかし、そもそもがASD-自閉スペクトラム-自体、「連続体(スペクトラム)」だと主治医がよく言う。人それぞれ、濃淡があって当然なのだそう。
先日の診察で医師に「ASD由来の記憶特性によって、思春期のトラウマが鮮明によみがえり、複雑性PTSDを起こしている可能性が高い」と言われたのだが、まったくその通りだと思う。
そしてトラウマとこの"カメラアイ”は相性が良すぎる。いや、悪すぎると言うべきか。とにかくこの記憶特性が、トラウマを鮮度の高い状態で保存してしまうようだ。
何が原因で自分が困っているのか、すこし詳細に分かっただけで前進だと感じる。同じような記憶特性を持っている人、そういった人の理解を深めたいと調べ事をしている人の一助になれば幸いです。