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「私が行く場所じゃない」ーそう思っていたところに、身も心も救われた話【心療内科編】

ある年の春、風邪でもメンタルでもない、だけど自分的には人生で一番つらい体調不良を経験しました。

毎年春になると、あのつらくて毎日泣いていたときのことを思い出します。

そんな私を、どん底から救ってくれたのは「心療内科」でした。

「心療内科」「精神科」は、人によっては敬遠してしまう分野の診療科かもしれません。恥ずかしながら、以前の私はそうでした。

当時の私のように、 身体や心の不調に悩んでいるにも関わらず、「そんなに大げさなことじゃないから」と、「心療内科」や「精神科」への受診を選択肢から外してしまっている方は少なくないと思っています。

治療は本当に人によるものなので必ずしも受診をおすすめするものではありませんが、過去の私と同じように悩んでいる方にとって少しでも参考になればと思い、当時のことを記録します。

1 経験のない身体の不調、原因不明でさらに塞ぎ込む悪循環

一人暮らしを始めた秋、なぜか初月からほぼ毎月発熱していました。
確かに仕事でプレッシャーがかかっていた時期と重なってはいましたが、「こんなに虚弱体質だったかなあ」と不思議に思う日々。良くなっては発熱し、を繰り返していました。

そして春を迎えるころには、とうとう食事が摂れなくなってしまいました。

お腹が空かないどころか、何も食べていないのに常に胃もたれしている状態。
毎日苦しくて苦しくて仕方がありませんでした。

よくわからないけどなんか胃腸炎とかかもしれないからとりあえず診てもらおう、と近所の胃腸科へ。

ところが数分の問診の後、「うーんなんだろう……。ストレス性かなあ。とりあえず漢方と胃薬出しておくね。」とだけ言われ、薬を処方してもらっただけでした。特にこれといったストレスに心当たりはありません。

今でこそ胃の不調は診察が難しいものと理解できるのですが、当時はただでさえ弱っていたにも関わらず、はっきりした原因や病名を伝えてもらえなかったことで余計モヤモヤしてしまいました。

その薬では一向に良くならず、結局その後、私は3つの内科・胃腸科を渡り歩くことになります。

3つ目の胃腸科の先生はとても親身に話を聞いてくださり、この世の胃薬全部試したんじゃないかというレベルでそれはもうたくさんの種類の胃薬を試させていただいたですが、改善の兆しは全くありませんでした。胃カメラもやってもらいましたが、苦しかっただけで特に異常はなし。

毎日毎日胃が苦しい
「食事が摂れない」普通の状態じゃない自分
こんなに通院しても良くなる見込みがない
目に見えてわかるレベルで痩せ細ってきている

ピーク時には体重も10kg近く落ちていました。

いろんな要素が重なって精神的にもかなり追い込まれ、胃腸科に通院していた最後の方は診察のたびに泣いて先生を困らせていました。

母も心配していました。
幸い実家が電車で90分ほどのところなので、平日はない力を振り絞ってなんとか仕事をこなし、毎週末実家に帰っての繰り返し。

毎週帰っては食事も摂れず泣いている。
そしてとうとう身体が言うことを聞かず、仕事の時間に起きられなくなりました。

そんな私を見かねた母が一言、

「心療内科、行ってみたら?」

思いもよらない選択肢を突然示されて、唖然としてしまいました。

2 偏見を振り払い、勇気を持って心療内科へ

本当に偏見も甚だしいですが、「心療内科なんて自分の行くところじゃない」と本気で思っていました。

これには一応理由があり、10年以上前、父親が重度のうつ病を患っていたのです。
病に犯され毎日暴れる父親から、私たちだけでなく、自分も守りきれないと判断した母親が離婚に踏み切るほどの症状でした。(その後父親とは、今に至るまで一度も会っていません。)

精神医療に対してはどうしても父親のイメージがついてしまっており、「私はお父さんとは違うのに」と思っていたのですが、どん底の私にはもう他に選択肢がありませんでした。

評判の良さそうな心療内科を探し、「付き添ってあげるから」と声をかけてくれた母に連れられて、初めて足を踏み入れました。

「意外と明るい雰囲気なんだな」というのが最初の印象です。

待合室はソファー席とカウンター席。暖かな雰囲気の照明に包まれ、決して塞ぎ込むような雰囲気ではないのですが、患者同士が向き合うことのないような配置になっており、配慮を感じました。

また、患者の方々は見た目には症状を抱えているとはわからないような方がほとんどでした。

そしてドキドキの診察。

先生「こんにちは。初めまして。今日はどうされましたか。」

ニコニコと感じの良い若い男性医師です。

私「毎日毎日胃が苦しいんです。ご飯も何も食べられません。胃腸科は3箇所受診して、胃薬もたくさん試しました。でもなんにも良くならないんです。」

今にも泣きそうになりながら、とにかく辛いのだと言うことを伝えるのに必死でした。

先生はうんうんと微笑みながら私の話を聞いたのち、紙とペンを取り出し、図にしながら説明してくれました。

先生「うちで診ているのは、脳の神経の不調による身体の症状と、心の不調による身体の症状です。あなたの症状は前者だね。」

前者が「心療内科」の領域で後者が「精神科」の領域ということも併せてお話ししてくださいました。続けて

先生「症状が出ているのは胃だけど、胃自体に原因がないのであれば調子を崩しているのは神経の方だだから、胃薬じゃなくて神経の方にアプローチするお薬が必要だね。」

と、これまでの診察でいちばんストンと落ちてくる説明をしていただきました。

そして人生で初めて抗うつ剤を服用することになったのです。

3 初めての改善の兆しから完治まで

最初に処方された抗うつ剤では良くならず、またパニックになりかけました。(恒例の号泣受診)

しかし先生はまったく動じず、「じゃあこっちにしてみよっか。」と別の抗うつ剤を処方してくださり、その薬を服用して間もなくのことです。

「あれ……?」

朝目覚めると、胃の感覚が違いました。なんか食べられそう!と思った予感は的中、その朝は久しぶりにちゃんと食事を摂ることができたのです。

次の日も、その次の日も、前日より食べられるものが増える。

どん底の状況から初めての改善の兆し。
気づけばまともに固形物を口にすることができなくなってから、もう1ヶ月以上経っていたのでした。

期間でいうと短く感じますが、それまで当たり前のように3食摂っていた食事が1ヶ月間まともに摂れなくなるというのは身体的にはもちろん精神的にもかなりつらいことでした。

もちろん劇的には良くならないので、焦ることもありましたが、先生はこちらの心身不安定な様子に一切動じず、いつも落ち着いてお話をしてくださいました。

根気強く診ていただき治療を続け、通院ペースは週に1度からだんだんと2週間に1度になり、最後は月に1回まで落とすことができました。

その後、夏にはほとんど元のとおり3食しっかり食べられるようになり、胃の症状が出ることもほとんどなくなったのです。

あのとき勇気を出して病院に行っていなかったら、年単位で苦しんでいたかもしれないなあと思うとゾッとします。

4 結局原因はなんだったのか

そうと診断されたわけではないですが、おそらく私の症状は「機能性ディスペプシア」と呼ばれるものだったと思います。

原因はストレスと言われることが多いようですが、既述のとおり当時心当たりのあるストレスはなかったのでよくわかりません。

先生に言われたのは、「あなたの症状は心の不調によるものじゃないからね。神経の方だから、これっていう原因はなくても何かの拍子にバランスを崩してしまうことはあるんだよ」とのこと。

原因がわからないことに不安になってさらに塞ぎ込んでしまっていたけれど、そんなに考えすぎなくてよかったのかもしれません。

しいていうならば、「フェリチン」という貯蔵鉄の値が著しく低かったのが一因にあるようでした。フェリチン不足が自律神経や精神病に影響することはあるとのこと。
そのため、処方された抗うつ剤とは別に自分で買った鉄サプリも服用していました。

サプリとはいえ侮れず、服用することでフェリチンの数値はしっかり上昇し、それとともに症状も改善されていきました。
フェリチンは一般内科などで計測することはほとんどないようなので、原因不明の心身の不調がある方は一度測ってもらうのも良いかもしれません。

5 心と身体の両方に寄り添ってもらえる場所

今回の症状は、普通の風邪のように「熱が下がったから完治」というのとは少し違うので、症状が落ち着いた後も季節の変わり目などでは若干体調を崩すこともありました。

先生もおそらくそれを分かってらっしゃったので、結局1年間くらいは毎月通院しました。

あれから3年ほど経ちましたが、今でもたまに食事が摂りづらくなったりすることがあります。

ただ、もう自分に効く薬が分かっているので、「あ、調子悪くなってきた」と思ったら迷わず診てもらいに行っています。
3年前は、選択肢にもなかった“心療内科への通院”。これを当たり前のように生活に取り入れられるようになったということは私の中で大きな進歩です。
大変な不調を経験し、心療内科に救われた身としてお伝えしたい。

身体や心の不調を侮らないでほしい。
恥ずかしいことでもなんでもない。
身体や心が疲れてしまったと、あなたの身体から出ている大事なSOSです。
ひとりで抱え込まず、然るべきところに頼ってみてください。

症状が改善されたあと、今回の経験を近しい人たちに話してみたところ、友人から「実は私も同じような症状があるんだけど、どうしたらいいかわからなくて……」と言われました。こんなに身近に同じことで苦しんでいる人がいたなんて……。

思えば私も、一度友人に言われた「痩せすぎじゃない?!ちゃんと食べなよー!」という心ない一言に傷つき、もう誰にも相談しないと塞ぎ込んでしまっていました。

経験のない人の理解を得ることは難しいですが、同じような悩み・経験を持つ人は案外少なくないのかもしれないと気づいたのです。

よく考えたら、あまりにも多様すぎる人やもの、発言、価値観、生き方が溢れているこの世の中、心が疲れてしまって風邪をひくことだって当たり前にありますよね。おかしいことは何にもないはず。

心身のバランスを崩したとき、「心療内科」「精神科」に頼ることを選択肢のひとつとして検討してみてほしいです。(一般内科などで異常が見つからないことが前提ですが。)私も素人なので必ずしも好転に向かうとはもちろん言えませんが、少なくともそういった医療機関を敬遠することはないよと言いたいです。

人には言いづらいことだと、一人で抱えて苦しむ人が少しでも減りますように。


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