代行のビジネスモデル
ビジネスの世界では、時として「困った」が「機会」に変わることがあります。
今回は、ビジネスモデル鑑定士の古賀さんと、地方のIT企業でマーケティングを担当する白沢さんの対話を通じて、「代行」というビジネスの可能性を探ってみましょう。
教えることが好きすぎる古賀さんと、説明が詳しすぎる白沢さん。
そんな2人の「個性」が、思わぬ気づきを生み出します。
果たして、彼らは「代行」という切り口から、どんなビジネスの種を見つけ出すのでしょうか？
閉店間際の喫茶店で交わされる、にぎやかな会話が始まります。
古賀さん「白沢さん。こっちです」
白沢さん「あ、古賀さん！よかった、まだいらっしゃった。電車が遅れちゃって…。あの路線、しょっちゅう遅れるんですよ。どこだったかしら、送電線に問題のある場所があるとかSNSで指摘されてて、それがなかなか改善されないとかなんですよねー」
古賀さん「はあ」
白沢さん「まあ、だけど、私がいつも使っている〇〇線なんてもっど酷いですよ。〇〇線って、風が吹いたら遅れますし、雨が降ったら止まっちゃうんですからね。カメハメハ大王じゃないんですからねー」
古賀さん「えっと、白沢さん」
白沢さん「あ、すみません、余計なことをいっぱい。遅れて申し訳ありませんでした。この喫茶店、閉店時間が近いのに、すみません」
古賀さん「いえいえ、気にしないでください。白沢さんからの相談は、いつも面白いアイデアのきっかけになりますから」
白沢さん「ありがとうございます。今日の相談はですね、友人の相談を受けたんです。突然話があるっていうから何だと思ってたらLINEじゃだめだって。しかたなく電話したんです。彼女、代行ビジネスを始めたいって言うんですよ…あ、その前に、経緯を説明させてください。というのも、この友人とは大学時代からの付き合いで…」
古賀さん「（笑）まずは一息つきましょう。コーヒーにしますか」
白沢さん「あ、はい、すみません。つい話が長くなりそうに…。でも、この友人の状況を理解していただくには、やっぱり背景から説明しないと、やりにくくてしょうがないんです」
古賀さん「いいですよ。白沢さんの説明は、むしろ状況がよく分かって助かります」
白沢さん「ありがとうございます。それで、この友人なんですけど、今まで大手企業で営業職として働いていたんです。でも、最近リストラされて。女性だからという理由だったら許せないですよね。でも彼女、案外せいせいしているみたいで、独立して何か始めたいと考えているみたいなんです。代行ビジネスに興味があるらしくて」
古賀さん「なるほど。代行ビジネスですか」
白沢さん「でも、代行って色々ありすぎて。ネットで調べても、家事代行、買い物代行、待ち時間代行、文章作成代行…もー、たくさん種類があって。私も友人に『どんな代行がいいかな？』って聞かれたんですけど、答えに困ってしまって。なんで私がそんな質問に答えなくちゃいけないんでしょうね。友人が自分で考えるべきことでしょう。だけど放ってはおけませんし」
古賀さん「代行ビジネスは確かに種類が多い。でも、整理する方法はありますよ」
白沢さん「整理する方法があるんですか？」
古賀さん「ええ。代行ビジネスは大きく分けると3つのタイプがあります」
白沢さん「3つですか。なんだろう。詳しく聞きたいです。どんなタイプがあるんですか？ 高級なものとそうでないものがあるとかですか。それとも…」
古賀さん「3つのタイプというのは、まず『時間の代行』。誰でもできるけど時間がない人の代わりに行うもの。次に『スキルの代行』。特定のスキルを活かして行うもの。そして『心理的負担の代行』。精神的に負担を感じる作業を代わりに行うもの」
白沢さん「なるほど。ちょっとメモさせてください。私ね、方眼紙ノートを愛用してるんです。これってアイデアを整理するのに使いやすいって言うか。いまみたいに箇条書きするのはもちろん簡単ですし、ほら、表のようなものを書こうと思えばこうやって線に沿って書いていけば表らしくなるでしょ？…えっと、代行ビジネスの3つのタイプでしたね、3つって、時間と、スキルと、心理的負担。そっかー、そう分類すると分かりやすいですね。ちなみに、時間の代行には待ち時間代行とか買い物代行が入るんでしょうか？それとも…あ、スキルの代行だと、私が得意な文章作成なんかも入りますよね？でも、文章作成って心理的負担を感じる人もいるから、もしかして心理的負担の代行にも…」
古賀さん「その通りです。これらは完全に分かれているわけではないんです。組み合わせたものもありますね。ところで最近では『上司代行』なんていうサービスまであるんですよ」
白沢さん「え？上司代行？私も頼もうかしら。上司代行って、説教したり、飲みに連れて行ったりするんですか？じゃあ当の本物の上司いらないじゃん、って思いますけど」
古賀さん「昨今の上司は、部下の管理や教育と、業績をあげることを両方、要求されてますからね。プレイヤー上司も増えている。仕事ができればよいというものではない。それで部下の教育のほうを代行する仕事が存在するんでしょう」
白沢さん「それって単なる研修とは違うんですか？」
古賀さん「違います。研修は一般的な知識やスキルを教えますが、上司代行は実際の業務に即した指導をします。時には叱ることもある。まさに『上司』として振る舞うんです」
白沢さん「ところで、さきほど『組み合わせ』の話をなさっていましたけど、どういうことですか」
古賀さん「たとえば文章作成代行なら、スキルを提供しながら、依頼者の時間も節約できる。場合によっては心理的負担も軽減できる」
白沢さん「なるほど！要素を組み合わせることで、より価値の高いサービスになるんですね。あ、そう考えると、私の友人の場合、営業職の経験を活かせば…」
古賀さん「営業経験者なら、商談の代行とか…」
白沢さん「でも代行ビジネスって、何でもかんでも請け負えばいいってものじゃないですよね？たとえば、私、このあいだね…」
古賀さん「何でもかんでも請け負えばいいってものじゃないです。代行には『信頼』が不可欠ですから」
白沢さん「信頼…。あ、これについて、ちょっと長くなるんですが、私、このあいだね…あ、ごめんなさい。話の腰を折っちゃって」
古賀さん「大丈夫です。どうぞ」
白沢さん「ありがとうございます！実はこのあいだ、先週だったかしら、私の会社でクライアントとの商談があったんです。場所は、このあいだ完成したばかりの〇〇ビルの中でしたけど。ご存じですか、最近、〇〇エリアって開発が進んでいるでしょ？その隅っこの方に建ったオフィスビルがあって。えっと、方角はあっちのほうになるのかなぁ。ここからは見えるでしょうか、えっと…」
古賀さん「白沢さん」
白沢さん「あ、すみません。それで、その際、プレゼンの際ですけど、プレゼンの途中で『この部分は、もっと詳しく説明してほしい』という要望が出て。でも担当者が急に体調を崩してしまって。それで私が代わりに説明することになっちゃったんですけど…」
古賀さん「ほう、どうなりました？」
白沢さん「私、つい細かいところまで説明したんです。そうしたら、意外とクライアントの方が『こんなに詳しく説明してくれて助かる』って言ってくれたんです。そのことを思い出して、さっき考えたんです。もしかして、『説明代行』っていうのも需要があるんじゃないかって」
古賀さん「面白い発想ですね」
白沢さん「私、よく『話が長い』って言われるんですけど、詳しい説明が必要な場面では、それが強みになるかもしれなくないですか。弱みを強みに転換するっていうか、話が長いのは情報量が多いということになるんじゃないかなって。たとえば私の反対に口数が少なくてあまりしゃべらない人っているでしょ？そういう人は裏返せば『聞き上手で、相手の話をじっくり聞くことができる』って言い換えることができますよね。あ、そうだ。私の別の友人の話なんですが…」
古賀さん「白沢さん」
白沢さん「あ、またもやすみません。私、もう、口にチャックすることにします」
古賀さん「口にチャックって、子供か。しかし『説明代行』いいじゃないですか。個性を強みにするなんて大事な気づきですよ。私も教えたがりの癖が過ぎて反省することが多いんです。でも、それを活かした代行サービスという考え方もありますね」
白沢さん「そうですよね。個性を代行ビジネスの武器にする。うん、これ、友人にも伝えたいです」
古賀さん「代行ビジネスの本質は、単なる作業の代替ではなく、相手の求める価値を提供することですよ。そこを忘れずに」
白沢さん「はい、心に留めておきます。でもありがとうございました。友人にもアドバイスできそうです。あ、いやだ。もう閉店時間じゃない。あ、だけど、まだラストオーダーを聞かれてないから、お腹空いてるし、いまからなにか注文していいですか。古賀さんも何か食べません？」
古賀さん「さっき白沢さんが話している途中にラストオーダー聞かれましたよ」
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