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【講座メモ】小川未明『野ばら』三回目

池袋コミュニティ・カレッジにて講師を担当しております講座・西村俊彦の朗読トレーニング。
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小川未明の『野ばら』を読んでいくシーズンの三回目・講座メモです。

・温度感を意識する/音の硬軟

冬は、やはりその国にもあったのです。寒くなると老人は、南の方を恋しがりました。

小川未明「野ばら」

この文中の冬、南の方、という言葉の周辺に、
寒さ・暖かさをそれぞれ漂わせてみます。
寒いとどことなく硬い音、暖かいとどことなく柔らかい音が出てくるのではないでしょうか。
やりすぎない程度に音の硬軟をつけてみると、温度感のある読みに繋がります。
音の硬軟は心境の変化(緊張・リラックス)などにも使えるので、読みに感覚を与えるには意識したいポイントの一つです。

・逆の要素を捉える

小川未明の『野ばら』には、度々対立する要素(戦争・平和など)が登場します。
こういった言葉の周辺の音を先程の硬軟や、音の高低で変化をつけていくとイメージの対立が鮮明になります。

・会話

老人の兵士が青年の兵士に「自分の首を取って持っていけ」と語りかけるセリフ。
『野ばら』の中でも味わい深い一場面ですね。
このセリフを
懇願するように/優しく諭すように
の2パターンで読んでみました。
これだけでもイメージが大分変わってきますが、
語りかける側が変化すると、続く青年のセリフ
「なにをいわれますか。」以降も受け方が変わってきます。
もし自分がこの立場だったら、と考えると、自然セリフが生きてきますね。
またセリフの目的を「懇願する/諭す」といった簡単な言葉にしてみるのも、表現をクリアにする助けになります。

・価値の変化

青年が戦争に参加するため老人のもとを離れてからも、老人の日常は続きます。
「野ばらの花が咲いて、みつばちは、日が上がると、暮れるころまで群がっています」
という情景は変わらず続く訳です。
冒頭ではのどかな景色として描かれましたが、青年が旅立った今は、この景色は老人の目にはどう映るのでしょうか。
景色は同じでも、それを見る老人の心は、景色の受け止め方は、変化しているのではないでしょうか?
年取ってから出来た若い友が戦争に旅立った、この老人の心に寄り添ってみると、のどかさはある種の辛い景色になるかもしれません。
その場合、どんな読み方をすると老人の心情を表現出来るでしょうか?
もちろん、冒頭と同じくのどかな読み方をしても良いかもしれません。
同じ文章でも、視点の位置(老人に寄り添うのか、語り手として外から世界を見るか)によって読み方には差が出てくる事を味わいましょう。

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