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ヤシの木と館山 ――リゾート開発がもたらした南欧の景観

割引あり

千葉県館山市

漁業、そして観光地としても知られているこの街の一部地域では、オレンジ色の屋根と白い壁、そしてヤシの木という組み合わせの景観を見ることができます。

このような景観はどのように生まれたのか、さっそく理由を探っていきましょう。

館山駅から海へ向かって広がる「リゾート」のような街並み

鉄道の玄関口であるJR館山駅を降り、海側の西口へ出ると、まるでヨーロッパのリゾートに降り立ったかのような景観を見ることができます。

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オレンジ色の屋根と、白い壁が青空に映えますね。

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駅前から海へと延びる目抜き通り「夕映え通り」沿いにも、ヤシの木が並び立ち、整った街並みにどこか心躍るようです。

この街並みはどのようにできたのか?

それではこの街並みはどのようにできたのでしょうか。それは日本がバブル経済の真っただ中に全国で構想された「リゾート計画」に端を発します。

1987年に制定された「総合保養地域整備法(通称:リゾート法)」において、千葉県には「房総リゾート地域整備構想」が策定され、その地区の中で館山は「館山サンシャインリゾート」として指定されました。

館山は明治初期から保養地や海水浴場として人々が訪れていましたが、これを機に「海洋性リゾートタウン」という方向性を打ち出していきます。この時、景観の参考にしたのが、地中海に面した南欧の街並みでした。現在も「館山市街並み景観形成指導要綱」が敷かれ、統一された景観が整備されています。

南欧とヤシの木の関係性は?

あいにく私は南欧を訪れたことはありませんが、南欧のリゾート地のニースやコートダジュール、コスタデルソルの景観をインターネットで調べると、オレンジ色の屋根と白い壁の建物が立ち並び、海岸にヤシの木が植えられていることが分かります。

南欧の建物の色遣いに加えて、南欧のリゾートでも植えられているヤシの木も併せて植えられていったのでしょう(南欧のリゾートに生えるヤシの木が、自生していたのか意図的に植えられたのかは今後の調査課題です)。

ヤシの木はいつ植えられたのか?

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上の写真のように、館山の北条海岸に面した道路沿いにはヤシの木が植えられています。その一方で、写真の右手奥には松の姿も見えます。

それもそのはず。もともとこの海岸沿いにはクロマツの防砂林が植えられていました。それが1960年代から徐々にヤシの木にとってかわられていったようです(当時のハワイブームに乗っかったという)。

少し視点を変えて、地図を参照してみましょう。ヤシの木は地図記号にもなっていますが、実際にはどのように記載されていたのでしょうか。

今昔マップ_館山_1981測量

上の地図は、1981年測量の5万分の1地形図(「今昔マップ on the web」より)です。北条海岸のところには、特にヤシの木の地図記号は見当たりません。

今昔マップ_館山_2001_編集

上の地図は、2001年測量の5万分の1地形図(「今昔マップ on the web」より加工)です。見にくいですが、赤い丸で囲った中にヤシの木の地図記号が描かれています。

1981年の地図にはヤシの木は描かれていませんが、どうやら1960年代に植えられたヤシは現在のワシントンヤシとは違う、カナリーヤシというもので植えられてすぐに全滅してしまったようです。

そのため、1981年の時点では目立ったヤシの分布がなく、海洋性リゾートとしての方針が定まった1980年代後半から90年代にかけてヤシの木が植えられ、2001年の地図にはヤシの木が描かれるに至ったのではないかと考えられます。なお、現在の地理院地図でもヤシの木の地図記号を確認することができます。

地理院地図→ https://maps.gsi.go.jp/#16/34.995449/139.860671/&base=std&ls=std&disp=1&vs=c1j0h0k0l0u0t0z0r0s0m0f1

館山におけるヤシの木とは

さて、館山でみられるヤシの木について述べてきましたが、
①もともと海辺の観光地だった館山の海岸線に、1960年代ごろにじわじわとヤシの木が植えられていったが(ハワイブームが背景?)ほどなく全滅
②1980年代のリゾート開発の指定地域となり、「海洋性リゾート」を目指した。お手本として南欧の景観を参考とし、建物の色遣いに加えて現地でも植えられている「リゾート感のある」ヤシの木が植えられていった。
とまとめられるのではないでしょうか。

では、そんなリゾートらしさとヤシの木イメージはどのように紐づいていったのでしょうか。
拙著『雰囲気ヤシの木』では、南国やリゾートのイメージだったり、シティポップの象徴だったり、色々なイメージが含まれているヤシの木というものについて、豊富なカラー図版を交えながら様々な観点で考察しています。

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