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漫画レビュー:panpanya『THE PERFECT SUNDAY』(2013年4月『Quick Japan』107号)

喜怒哀楽のうち、真ん中の「怒」と「哀」をマンガで表現する手段は、長い時間をかけて発達し効率化が進んできた。一番最後の「楽」がギャグのことなら、それも日々開発が続けられてきた。でも一番最初の「喜」の表現については、いまいち進化のスピードが鈍かった気がする。幸せなだけじゃお話にならないからとか、苦難を乗り越えてこそのドラマだとか、理由はともかくとして、思いもよらなかったこんな喜び、気づかなかったあんな喜びというバリエーションがさほど追求されてこなかった。このことに気づいた「空気系/日常系」と呼ばれる人々が「喜」の表現を模索しはじめたのだと思うし、昨今のグルメマンガの流行もその一端だろう。

創作漫画集団「SF研究会」に参加していたpanpanyaが、2013年春の同人誌即売会「コミティア」で頒布した新刊『THE PERFECT SUNDAY』の「喜」の表現のリアリティは形容しがたい。最高な日曜日をすごすための30ページほどの物語という、あらすじだけ聞けばシンプルな話ではある。しかし「ありえなさ」と「あるある」が絶妙にふりわけられた展開、ゆれる枠線と描線、モノローグとセリフの不思議な配分など、細やかな要素がくみあわさって結論にたどりつく流れ全体が心地好く、読者の誰もが普段は忘れている隙間に置かれた「喜」が描写されている。前作の幻想的な冒険作品『方彷の呆』とはまた違った個性だ。作者はまだ何かを隠しているに違いない。

<!--以下2020年コメント-->

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320字
2001年以降に雑誌等に書いた記事を全部ここで読めるようにする予定の定額マガジン(インタビューは相手の許可が必要なので後回し)。あとnoteの有料記事はここに登録すれば単体で買わなくても全部読めます(※登録月以降のことです!登録前のは読めない)。『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』も全部ある。

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