音楽誌の最前線?(2006年4月『Quick Japan』65号)
音楽誌は90年代後半に一度到達点とでも言うべき高みに達していた。90年代のDJ文化/渋谷系的価値観を体現していた、橋本徹時代の『bounce』、増井修以前の『WHAT's IN? ES』、ドラムンベース特集以降の『MARQUEE』の三誌がそれで、「新譜/旧譜」「メジャー/マイナー」「邦/洋」にこだわらない驚異的なバランス感覚が魅力だった。これに次ぐのが97年に立て続けに創刊されたポストロック『AFTER HOURS』、ギターポップ『COOKIE SCENE』、田中宗一郎『SNOOZER』の三誌であり、どれも『ROCKIN'ON』に飽き飽きしていたリスナーへのオルタナティヴとして機能したと思う。『WHAT's IN? ES』が休刊した99年末、音楽の最前線から渋谷系は完全に消え去り、HipHopとR&Bがヒットチャートに溢れる00年代が始まった。
00年代といえば休刊であり、その後復刊したものも含め、振り返れば『FM fan』『音楽と人』『POP BEAT』『Vicious』『バンドやろうぜ』『R&R Newsmaker』『CD HITS!』『トーキンロック』『BReATH』『ザッピィ』『GbM』『JGM』などJ-POP誌が中心だったが、特に話題になったのが『ele-king』と『GROOVE』の相次ぐ沈黙だ。前者は00年末に、後者は01年3月に休刊。二大巨頭の不在にテクノ/クラブシーンは閉塞感が高まったが、『ele-king』編集長の野田努はその後『remix』編集長となり、『GROOVE』は季刊誌として復活、HEADZ編集『FADER』が音響派/エレクトロニカ情報を一手に引き受け、御大阿木譲編集の『infra』『BIT』も独自路線で歩みを進めるなど、むしろシーンの再編成期と言えなくもない。ミニコミなどの小規模のペーパーメディアでは、ポスト・エレクトロニカ&カルチャー雑誌『OK!FRED』、音響派の全貌を解き明かそうとした『nu』創刊号、独特な版型で存在をアピールした『Alpha and Omega』、杉本拓・角田俊也・吉村光弘らによる音楽批評ペーパー『三太』などが、一度は目を通しておきたい先鋭である。
情報過多のネット時代に求められているのは「まとめ」と「ブランド力」であり、最前線にある雑誌とは、取り上げる対象が新しいのではなく、取り上げ方・視点に新しさのある雑誌である。情報だけなら「ミュージックマシーン」のサイトで十分。個性のない音楽誌はどんどん消えちまえ!
(すべて敬称略)
<!--以下2020年コメント-->
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2001年以降に雑誌等に書いた記事を全部ここで読めるようにする予定です(インタビューは相手の許可が必要なので後回し)。テキストを発掘次第追…
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