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粉飾決算と倒産、キャッシュフロー計算書の重要性

こんにちは、公認会計士の吉川です。

10月15日の日経新聞に「粉飾企業の倒産が増加している」という趣旨の記事が掲載されました。

細かい内容は読んでいただきたいのですが、要約すると以下の通りです。

●粉飾している企業の倒産が増加している。
●30年以上の業歴を持つ企業に多く発生している。理由は金融機関等から
  の信用があるため、粉飾の発覚が遅れた。

記事内の冒頭で「粉飾倒産が増加している」との記述があります。しかし、これは不正確な記述だと感じます。どのあたりが不正確なのかを説明するために前提知識として下記の項目を説明します。

●粉飾とは何か
●企業はいつ倒産するのか
●キャッシュフロー計算書の重要性
●粉飾と倒産の関係

粉飾と倒産の関係性や、「粉飾倒産」という言葉がなぜ不正確なのかが分かるようになる記事を目指しました。

粉飾とは何か

ビジネスの文脈で粉飾というと、「粉飾決算」を表すことがほとんどです。
「粉飾」とは、美しく装い飾ることを意味します。その意味から派生して、「粉飾決算」とは、決算書の数値を操作することを言います。

粉飾決算には2種類ある

粉飾決算には、よく見せる粉飾悪く見せる粉飾があります。

本来の粉飾決算は、売上や利益をよく見せる粉飾を意味します。(「粉飾」の本来の意味からも)
しかし、後者の意味で使う人もいるため注意が必要です。

経営者には、株主や金融機関に見栄えのいい決算書を出したいという動機があります。上場企業では、決算数値によって株価に影響を与えますし、経営者は決算数値や株価で自己の評価が決まるためです。

では、悪く見せる粉飾をする動機は何でしょうか?
正解は、税金の負担を減らしたい、です。所得税や法人税は所得に対してかかりますので、利益を低く見せることで税負担が減ります。(脱税行為のため当然違法です)

粉飾の手法と簿記の仕組み

では、粉飾はどのように行われるのでしょうか?
ここからはよく見せる粉飾を前提にお話しします。

会計上の損益は、収益と費用で構成されています。
粉飾するためには、収益を増加させるか費用を減少させるかのいずれかです。例えば実際にはない売上を計上する方法があります。

決算書は日々の取引を簿記の仕組みで集計して作成されます。
簿記の原則は複式簿記です。複式簿記とは貸借(左右)に科目と金額を入れて記録する方法を言います。

そのため、売上を計上しようとすると売上に対応する科目が何か計上されてしまいます。

〇〇 1,000円 / 売上 1,000円

売上の相手科目が現金であれば、実際には手元にない現金が帳簿上増加してしまうため実際の現金と一致しません
現金以外であっても、必ず売上以外の何かにゆがみが出てくる仕組みになっています。これが複式簿記の特徴であり凄いところです。

企業はいつ倒産するのか

帝国データバンクによると、2024年上半期の企業の倒産件数は4,990件だったそうです。では、企業はいつ倒産するのでしょうか?

赤字になると企業は倒産するのか?

こちらはクラウド会計サービスなどを提供しているフリー株式会社の連結損益計算書の抜粋です。

有価証券報告書から抜粋

下から3行目を見ていただくと「当期純損失」の数字が分かります。
単位は千円のため、2024年6月決算は約101億円の赤字を計上していることが分かります。

1期前の2023年6月期決算でも約123億円の赤字を計上しています。
余談ですが、上場企業が発表する有価証券報告書では2期分の数字を並べて表示されます。

有価証券報告書より抜粋

こちらは、同じく2024年6月決算の連結貸借対照表です。純資産の部→株主資本→利益剰余金を見ていただくと約△510億円となっています。

利益剰余金は、創業以来の累積の利益(損失)を表しています。フリー株式会社は累積で500億円もの赤字を計上していることが分かります。

この例からもわかる通り、企業は赤字になったときに倒産するわけではないことが分かります。

企業はいつ倒産するのか?

フリー株式会社はなぜ経営を続けられるのでしょうか?それは会社に資金(現金)が残っているからです。資本金と資本準備金を見ていただくと、合計で約684億円計上されています。これは会社が株主から調達した資金です。

フリー株式会社は赤字経営が続いているが、それ以上に資金を調達できてるため経営を続けられるのです。

企業が赤字であっても、お金が払われている限りは取引先は取引を続け、従業員は働いてくれます。しかし、お金が支払われなくなった取引先は取引を停止し、給料が支払われなくなった従業員は会社を辞めていきます。

つまり、企業は赤字になっても倒産しないが、資金が無くなったときに倒産するのです。

反対に、黒字を出していても資金がショートした場合には倒産することもあります。これを黒字倒産といいます。

キャッシュフロー計算書の重要性

損益計算書だけでは資金の実際の動きを追うことはできません。
売上が計上されていても入金は数カ月先、ということは商取引上はよくあるためです。

この点が理解できると、キャッシュフロー計算書の重要性が分かります。資金ショートの心配がないか(=倒産のリスクがないか)を確かめることができるのがキャッシュフロー計算書なのです。

財務諸表と計算書類の違いを解説した記事で、キャッシュフロー計算書について触れました。上場企業などの大企業はキャッシュフロー計算書の作成義務がありますが、中小企業にはありません。

なぜ重要なキャッシュフロー計算書の作成義務が中小企業にはないのか。
これは完全に私見ですが、①作成が難しい②大企業は説明責任、中小企業は自己責任 という理由だと考えています。

①作成が難しい
シンプルな理由ですが、キャッシュフロー計算書は作成が難しいです。
仕組みが複雑なうえ、厳格な現金管理が必要になり煩雑です。リソースに限界のある中小企業にはハードルが高いのが現実です。

②大企業は説明責任、中小企業は自己責任
上場企業をはじめとする大企業は、株主に対して説明責任があります。また、取引先の数も多いため倒産した場合の影響は大きいです。
一方で中小企業は株主と経営者が一致していることが多く、倒産の影響も限定的です。

粉飾と倒産の関係

改めて冒頭の日経新聞の記事に戻ります。冒頭の文章を抜粋します。

粉飾決算などが理由の「粉飾倒産」が増えている。

日経新聞より抜粋

粉飾決算が原因で倒産することを「粉飾倒産」というように読めます。しかし、粉飾と倒産は直接関係ありません

企業の業績が悪くなる→株主や金融機関にいい数字を見せるために粉飾をする→業績が回復せずに資金ショート→倒産→粉飾していたことが発覚

多くの場合、このような流れになっていると考えられます。倒産した企業が、倒産をきっかけに粉飾していたことが発覚するという流れです。

明確に誤りとまでは言えませんが、日経新聞の記事でも必ずしも会計用語を正確に使っているとは限りません。記事の内容を正しく判断するためには、自分で正確な知識を身につけるしかありません。

まとめ

●粉飾とは決算数値を操作すること
●業績を良く見せる粉飾と悪く見せる粉飾の2種類がある
●企業は赤字になっても倒産しないが、資金ショートしたときに倒産する
●新聞記事でも正確ではない表現はある
●知識をつけて判断するのが大切

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