トラックの飲酒事故急増 R5年の件数、前年の4倍に
人手不足でドライバーの質が低下?
トラックの 飲酒運転による交通事故が増加している。警察庁の交通統計によると、令和5年に発生した事業用トラック(軽貨物を除く)の事故発生件数は23件と、減少傾向だった令和4年の6件から一転して4倍に急増した結果となった。
10月1日、行政処分基準が改定された。当初は来年1月の実施を予定していたが、飲酒運転事故の増加から3か月前倒しとなった。改定内容には、新たに飲酒運転に対する「指導監督義務違反」が設けられ、飲酒運転に対する指導が未実施の場合は初違反で100日車、再違反で200日車の処分が課されることになった。
トラックの飲酒事故で記憶に新しいのが、今年5月に家族3名が犠牲となった群馬県のトラックの事故だ。この事故ではドライバーがアルコールチェック後に飲酒しており、車内からは焼酎の空き容器が数本見つかった。
他にも7月7日、埼玉県の国道で、中型トラックが交差点手前でガードレールに接触し、横転。警察官が運転者にアルコール検査を行ったところ、運転者の酒気帯び運転が確認され、車内からアルコール飲料の空き缶が発見された。
7月9日、岩手県の国道で、大型トレーラが左カーブを曲がり切れず、対向してきた乗用車と接触。警察官がアルコール検査を行い、運転者の酒気帯び運転が確認されており、今年に入っても飲酒事故は後を絶たない。
なぜトラックの飲酒運転が増加しているのか?
ある運送会社の社長は「ドライバーの質が低下している。昔は面接である程度精査してドライバーを雇い入れていたが、人手不足で何でもかんでも入れてる状況の会社も増えている。運送会社自体の質も落ちている。また、コロナ禍が収束して走る車の量が増えた。走る車の増加に伴って、事故の数も増えたんじゃないかと考える」と話す。
また、飲酒運転の防止策については、「隠れて飲まれていたら対処のしようがない。最終的にはドライバーの良心を信じるしかない」と多くの事業者が口をそろえる。特に長距離輸送は対面で点呼を行うことができないため、アルコールチェックの偽装などチェック後の飲酒を警戒する声も聞かれる。
そういった問題に対処するため、ドライバーへの教育に力を入れている会社もある。
大阪府のある会社は「うちでは年2回、安全講習会を行っているが、飲酒運転に関する指導は毎回必ず行っていて、ドライバーにアルコールに関する正しい知識を持ってもらうようにしている。缶ビール一つ分のアルコールが抜け切るまでにどれほどの時間を要するかといったアルコールに関する正しい知識をドライバー達に持ってもらうように努めている」と話す。
三重県のある運送会社では「日頃の教育がとても大事。飲酒事故で家族を亡くされた方の手記を安全会議で取り上げている。うちは業務規定の部分で乗務の12時間前には飲酒はしないと定めていて、入社する人には面接時に同意のサインをしてもらっている。もしも破ったら有無を言わさず解雇するということを伝えている」と話す。
元トラックドライバーの事故防止コンサルを行う、セーフティー・サポートの渡辺良祐氏は、群馬県の飲酒事故に関連して次のように述べる。
「勤務中に飲むというのは社会通念上あり得ないこと。そういったドライバーへの対策は、まず入社させないこと。面接で酒を飲むかどうかを聞き、飲む人に対してはこれまでアルコールチェックに引っかかったことがあるかを聞く。入社時の面接は事故防止の一面もある。いくら人材が欲しいと思っていても、運転に適さない人というのは存在する。そういう人は雇うべきではない」(11月4日号)