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伊勢神宮 式年遷宮 の準備始まる・・・しかし費用は?

4月9日、三重県内の各マスコミが一斉に、伊勢神宮で令和15年(2033年)に斎行予定の第63回式年遷宮の準備が始まったとのニュースを報じました。
式年遷宮は伊勢神宮にとって最も重要な、20年に一度、社殿や鳥居、神宝などをすべて新しく作り替える神事であり、約1300年も昔から営々と続けられている、まさしく日本の誇るべき行事と言えると思います。

創設当時の伊勢神宮は皇室の宗廟であったので、当然ながら式年遷宮は朝廷が財政負担して行われました。
次第に時代が下り律令制が衰退すると、莫大な費用が必要な式年遷宮は、その時代時代の権力者が費用を負担する風潮に変化していきます。具体的には源頼朝などの鎌倉幕府、次いで室町幕府の足利将軍家、さらに織田信長や豊臣秀吉が式年遷宮の後ろ盾になったのです。これはまさしく、日本最高の神社である伊勢神宮の式年遷宮を(実質的に)行う者こそが、この国の支配者であることを広く知らしめたとも言えるでしょう。江戸時代になると、もちろん徳川将軍家が式年遷宮を差配しました。

これが明治時代になると、王政復古のご一新を迎えたため、伊勢神宮は政府所管の国家神道となり、遷宮も政府の事業として税金で行われるようになりました。
さらに太平洋戦争の敗戦により国家神道が崩壊すると、戦後の式年遷宮は政教分離により国家の手を離れ、神道界と民間の寄付によって行われるように大変化します。

ただし、神事としての式年遷宮はあくまでも天皇の命令によって行われることが建前であるため、政治的な権能は有しないとされる現代でも、天皇の「ご聴許」、つまり了解を得たうえで行われることになっています。
三重県内を賑わせたニュースも、次回式年遷宮の再興について今上天皇からご聴許があり、これによって各種の準備行為が正式に始まることになった、ということが正式な内容でした。これを受けて、地元の伊勢市では早速提灯行列や花火打ち上げなど奉祝が行われ、ムードが盛り上がっていると伝えられています。

平成25年式年遷宮の様子

ただし関係者の間では、歓迎と同時に、式年遷宮に必要な費用の調達について心配する声も上がっています。昨今の建設資材や人件費、運搬費などの諸物価高騰が、9年後までにどれほど影響するのかはなかなか見通しが立ちません。まして神道界最大の組織である神社本庁が内紛状態であるなどと伝えられていることや、日本の少子化・高齢化・国際化による氏神信仰の衰退など、不安要素が山積みになっているのが残念ながら現状です。

では、伊勢神宮の式年遷宮には実際にどれほどの費用が必要なのでしょうか。
前回、平成25年(2013)の第62回式年遷宮の総事業費は558億円だったそうです。これは人口十数万人規模の都市の一般会計予算に相当する巨額です。ちなみに伊勢市の令和5年度一般会計予算額は約524億円なので、この全額を企業や団体、個人からの寄付で(全国の神社を経由したお賽銭や奉賛金などを通じたとしても)調達したのがいかに大変であったかは、容易に想像できます。

驚くのは、この式年遷宮費用は、回を重ねるごとに額が大きくなっていることです。
宗教学者の島田裕巳さんによると、前々回の平成5年の第61回式年遷宮費用は330億円と、平成25年に比べて6割ほどの額でした。さらにその前の昭和48年の第60回は、何とたったの60億円で済んだのです。もちろん、この時代は高度成長期で、物価の上昇も今より激しかったので一概に比較はできませんが、まさしく隔世の感があります。

では次回はいったいいくらかかるのでしょう。伊勢神宮の久邇朝尊大宮司は費用を前回同様の558億円と見込んでおられ、「今回は物価高や人件費の高騰で増加するとみられる一方、費用を抑える努力もする。」とおっしゃっておられます。

その一方で前出の島田さんは、「式年遷宮にかかる費用の高騰はすさまじい。このままだと、次に費用が1000億円を超えても不思議ではない。最近の建築費の高騰を考えれば、それは十分にあり得ることである。」と書いており、昨今の情勢を見れば、まったくごもっともなことと思われます。


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