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ぼたん鍋とshort story

「花よりお肉」

吉原遊郭の片隅にひっそりと佇む蔵のような建物。
噂によると、紹介がないと入れない会員制の花魁クラブで、
極上のおもてなしが待っていると言う。
メニューは「牡丹、桜、紅葉」のみ。
それが、花魁の名前なのか、サービスの名前なのか、
会員になったもの以外わからない。
ただわかっているのは、
店から出てくる男たちはみな、満足そうに、ピュア肌で店から出てくると言う。

春画見習い中のマサ。師匠についてもう10年にもなるが全く目が出ない。
もうすぐ3人目が産まれる。嫁からはいい加減安定した仕事につけと文句を言われている。
春画、辞めてもいいかな、マサは思う。
そもそも、春画に興味があるわけじゃないし。でも他に興味を持てるものがない。
とにかく金を稼がなくては。
そんなある日、仲間から花魁クラブへ入れる紹介状をもらった。
「極上のおもてなしを味わったら、
きっと誰もが興奮する春画が描けるにちがいない」

マサは嫁の着物を黙って質屋に入れ、借金をして、例の花魁クラブへ行った。
「ぼ、牡丹で」窓口の婆さんに告げた。
地下へ続く階段を降り、薄暗い暗い個室へ案内さた。
座ったことのないフカフカの椅子に腰掛けて、ドキドキしながら待つマサ。
と、ふんわりと、味噌煮込みの匂いがしてきた。
お腹がぐうとなる。
出てきたのは、ぼたん鍋、猪鍋である。
「え?」
ここは、肉が禁止されている江戸で営業する闇の料亭。
生まれてはじめて食べるぼたん鍋に感動したマサ。
そこでマサは、それを丁寧に模写し、その感想を文字で綴った。
ある日それが江戸界隈で話題になり、マサは春画から食ブロガーに転向した。
the end.

京都「貴船荘」で食べた、ぼたん鍋に思いを馳せて。



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