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一番人気メニューをやめた喫茶店

「プリン出すのやめたんですよ。」
今日は、呆けた父がぐっすり昼寝しておやつの時間に声をかけても起きる様子が無いので、母を連れだして近所のお気に入りの喫茶店へ出かけて来た。

馬喰町のまわりには、最近小商いの多種多様な店が増えた。特にコーヒー屋さん。喫茶店。焙煎は仲良しの仲間の少し大きなお店の焙煎機を借りてやっているというその店は、桜小学校の脇のやや急な坂を登りきったところにある。

my morning coffeeというお店の名前の由来を聞いたことは無いけれど、朝早くから店をあけ、毎朝仕事前に一杯立ち寄るお客さんで賑わうお店を見ていると、誰かの毎日の暮らしの癒やしやちょっとした希望みたいなひとときをコーヒーで提供したいとはじめたのかなと想像したくなる。
店内で、ラップトップを開いたり電話をすることは禁止。つまり、仕事しちゃダメよ、という決まり。

最近、開店当初から提供していた固めのプリンを出すのをやめたらしい。ラム酒のきいたホイップクリームを添えたプリン。私の大好きなメニューのひとつだった。やめた理由を聞いたのは、メニューがなくなったことに気が付かず注文したそのときだった。「僕ら、コーヒーを提供したいんです。コーヒーで癒やされたよ〜というお客さまを大事にしたい。プリンだけを目当てに遠くからはるばるやってきてくださる方、ありがたいけど。そのせいで、コーヒーを毎朝楽しみにしてくれてる大事なお客さまが離れていってしまうのは、僕らの信念に反するなって。」
なんだか目の覚める感じがした。お金がなきゃ生きていけないけど、自分が信じてることや大切にしたいことに嘘をついてまでやることって、何か意味を生むのか?もしかしたら誰も幸せにしないんじゃないか?
プリンの代わりに新しいスイーツが並ぶレジ横。焙煎したてのコーヒーに合うものを、次々と新しく開発していくらしい。
新しいコーヒーの楽しみに毎朝出逢える幸せ。my morning coffeeの店主が一番提供したい価値。開店当初から知らず知らずのうちに、その価値を買っていた自分自身に気がつく。
インスタグラムを開いて店の外まで並ぶ、馬喰町にいなさそうな華やかな子たちがいなくなって、昔からの顔馴染みや最近越してきたばかりの人が美味しそうにコーヒーを愉しむ空間は、流行病のようなバブルのような少し前の空気よりも澄んでいて、居心地が良かった。
母が、家では見せないゆったりした表情を見せる。「ここのコーヒーって、やっぱり美味しいわよね。久しぶりに来て良かった。」

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