インバージョンの基礎理論①【私の備忘録】
みなさん,こんにちは.
とある地学屋の日常ことゆうすけです.
地球物理の観測データの解析でしばしばインバージョン(逆解析)と呼ばれる解析方法が使用されます.以前,私はインバージョンの基礎理論を簡単な例でプログラムを作りながら学んでいました.この記事では,私の備忘録を兼ねてインバージョンの基礎理論について数学的な説明を行っていきたいと思います.1回では説明しきれないため,何回かに分けて記事を出していきます.本稿では,インバージョンの大雑把な概念と,インバージョンの基礎理論を理解する上で必要な数学的知識について説明していきます.
インバージョン(逆解析)とは何か?
地球物理学における地下構造モデルの構築の研究手法には2つのアプローチ方法があります.1つ目はフォワード解析(順解析)という手法です.
フォワード解析は数値シミュレーションと言ったほうがイメージしやすいかもしれません.これは,地下構造を円柱や多角形といった形を仮定し,理論的なデータを求める方法です.
2つ目はインバージョン解析(逆解析)という手法です.インバージョンは理論的に求めたデータと現場で得られた観測データとの差(残差)を最小にする地下構造モデルを求める方法です.インバージョンを実施するためにはフォワード計算で行う理論計算だけでなく,残差を最小にするために工夫が必要で最小二乗法,非線形最小二乗法,遺伝的アルゴリズム(GA)といった方法が必要なのです.
数学的準備
ここでは,逆解析に必要な代表的な数学的知識を列挙してきます.ここでは主に最小二乗法・非線形最小二乗法に必要な公式を示しております.
※必要な公式を列挙しているだけなので,公式の導出は省略しております.
※基本的な行列・ベクトルに関する説明は省略致します.
◆転置行列
行と列を入れ替えた行列を転置行列といいます.もとの行列Aの転置行列をA^Tと表現します.行列Aを下記のように表します.
転置行列は下記のように表せます.
◆転置行列の性質
転置行列には下記のような性質があります.(kは係数とします)
◆ベクトルの内積
◆ヤコビアン(Jacobian)行列
偏微分が可能な関数(スカラー量)f, gを次のように表せるとします.
ここで,a11, a12, a21, a22を係数,x1, x2を未知パラメーター,t1, t2を観測値とします.このとき,関数f,gを未知パラメーターx1, x2で偏微分し,次のように表現できる行列をヤコビアン行列(Jacobian matrix)といいます.
◆ベクトルの微分
ベクトルの微分公式は沢山ありますが,特に最小二乗法・非線形最小二乗法で登場するベクトルの微分公式を2つ示します.
◆逆行列
行列Aの逆行列をA^-1と表し,次のように求めます.
行列の要素A11, A21・・・は余因子と呼ばれ,次のように表せます.
ここで□枠で囲った部分は省いて計算するのに注意が必要です.
インバージョンの基礎理論を学ぶ上で参考になるWebサイト
・トモグラフィー解析の基礎 (応用地質(株)HPより)
地質調査会社である応用地質グループが開発した地震探査解析プログラム「SeisImager」の解析マニュアルが掲載されているサイトにアクセスするとインバージョン基礎理論が書かれてあるpdfをダウンロードすることができます.
https://www.oyo.co.jp/oyocms_hq/wp-content/uploads/2015/01/text_tomography.pdf
・機械学習に詳しくなりたいブログ
最小二乗法に関する説明,公式の導出などが詳しく記載されています.
https://www.iwanttobeacat.com/entry/2018/01/13/221840
今回は,インバージョンの概念と最小二乗法・非線形最小二乗法によるインバージョンで登場する数学的知識について紹介してきました.次回からは,本格的にインバージョンの具体的な計算方法について述べていきたいと思います.