観音正寺 「触れる」
滋賀県近江八幡市にある、西国三十三所観音霊場の32番札所です。
京都市内にある、京仏師松本明慶氏の仏像彫刻美術館に伺った折、観音正寺の御本尊様を松本明慶氏が作られたと知り、お会いしたくて伺いました。
実は、前の御本尊様の千手観音菩薩様は、平成5年、原因不明の火災で本堂と共に焼失されたそうです。
平成16年に開眼された千手千眼観音菩薩様は、同じ年に落慶した、明るく、開放感に溢れた本堂にいらっしゃいました。
新しい御本尊様は、全て香木の白檀で作られていました。
ご存知のように、白檀は日本に自生していません。主に、インドなどで産する様ですが、貴重な木材のため以前より輸出が禁じられていて、とても手に入り難いそうです。
御本尊様の製作にあたり、御住職が粘り強くインドの関係機関と交渉された結果、インド政府の特別許可を頂けることになり、白檀の輸出が実現したそうです。
丈六の大変大きな仏様ですが、お顔は、松本明慶氏の美術館で何度も見た、幼子のような、あの明慶氏の仏様のお顔でした。
開眼当初は、その木の名前の通り白かった仏様も、開眼から年を経て、飴色の美しい木肌に変わったそうです。本当に手が1000本あるそうで、包み込まれる様な優しさと、圧倒的な存在感を感じました。
本堂でお参りを終え、ふと、受付の張り紙を見ると、僅かな拝観料で、格子の向こうの内陣に入らせて頂けると、書かれていました。聞くと、先代の御本尊様は秘仏だったが、新しい御本尊様は、拝観者の方に身近に感じて欲しいという、御住職のお考えなのだそうです。
早速お願いして待っていると、案内の方が御本尊様の詳しい説明をして下さり、御本尊様との結縁の証として、サフラン色の紐を手首に結んで下さいました。
それから、何人かの方と一緒に、格子戸をくぐりました。内陣の、すぐ近くで拝する御本尊様は、その大きさがなお一層強調され、すごい迫力でした。
案内の方が、「先程お配りしたピンクの蓮の花弁の散華で、御本尊様のお身拭いをして下さい。」と、おっしゃられました。
しかし、すぐには手が出せませんでした。仏様に本当に触れても良いのかと迷いました。何人かは、やはりためらっておられました。それはそうです。西国三十三所の仏様の中には、お参りしても、なかなかお目にかかることすら難しい仏様もいらっしゃいます。まして、御本尊様に「触れる」など、他のお寺では聞いたことがありません。
それでも、案内の方に「御住職のお計らいですからご遠慮なく」と、促され、同行した友だちにも促され、それではと、もう一度御本尊様のお顔を拝してから、お手を散華で拭いました。そして、その散華を鼻に近づけると、白檀の何とも言えぬ芳香がしました。
白檀のかおりと、御住職の温かなお気持ちに包まれて、御本尊様とご縁を結ばせて頂けたことの有り難さを、実感しました。
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時々、頂いた散華を袋から出してみます。今でも、白檀のかおりと共に、観音様のお顔と幸せな拝観の記憶が蘇ります。
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観音正寺は、標高430メートルの繖山(きぬがさやま)の8合目附近にあり、昔は西国三十三所の難所の一つと言われていました。
初めて参拝に来られる方で、戸惑われる方が多い様ですので、アクセスをまとめてみました。
歩いて登る道も、途中まで自動車で行く道も、それぞれ主に2つのルートがあるようです。
① 表参道 徒歩ルート
JR安土駅から安土町石寺まではタクシー。そこから、1200段の石の階段を登ります。階段は不揃いの石で出来ています。約45分かかります。一番達成感を感じられるようです。
② 表参道 自動車ルート
安土町側から入り、中腹の表参道駐車場まで自動車で行き、後は①と同じ道を途中から400段登ります。駐車場からは約15分です。通行料(600円)が必要です。駐車場は10台分ぐらいです。
③ 裏参道 徒歩ルート
JR能登川駅よりバス。(1時間に1〜2本)観音寺口下車。①よりは、本格的な山道ですが、勾配がやや緩やかで歩きやすい。結(むすび)神社の登り口が分かりにくい様ですのでお気をつけください。(標識があります。)約50分です。
④ 裏参道 自動車ルート
東近江市側から入ります。②よりも道幅が狭く、途中、対向車と行き違うことが困難な所があるようです。①同様通行料が必要です。駐車場からは約10分。石段はなく緩やかな坂道で、33枚の格言の書かれた立札を読みながら歩きます。体力に自信の無い方(私など)向きかと思います。
参拝される方の体力や、帰りの時間などの事情に合わせてお選びになられると良いかと思います。(自動車道は、積雪時、通行止めになるようです。また、年末年始は通行止めです。)