成島毘沙門堂 伝吉祥天立像

 一昨年、みちのくの仏様を訪ねた際、一番印象に残ったのがこの仏様でした。そして、この仏様に会えただけで、十分に訪れた甲斐があったと思いました。

 隣にそびえるように立っていらっしゃる兜跋毘沙門天様が、日本一大きい毘沙門天様なので、大変小さく見えますが、ほぼ等身大の仏様です。
 
 平安時代の初期の仏様と言われていてます。ケヤキの一木造で、表面の漆が無くなって、全身に美しい木目が見られます。
 
 どこまでも穏やかなお顔です。ふっくらした頬、小さな鼻、引き締まった口元。ほとんど閉じているかのような、細い目。見ていると、森のなかの湖の様な、静けさと気高さが伝わってきます。

 吉祥天と伝わっていますが、お召になっているのは菩薩さまの衣に近い気がしました。(但し、両足の間にかかる裳が、よく目にする観音様より短い為、ズボンのように見えます。)

 そして、手は、両手の平を前に向けて「ちょっと待って」と仰っているような珍しい形をされていますが、肘や肩の周辺にいくつものほぞ穴が有り、元は、たくさんの脇手を持つ仏様だったことが分かります。(しかし、これも千手観音の様に多くはありません。)
 
 そして、頭の上には、象の頭と思われる物が彫り出されていて、歓喜天では、とおっしゃる方もおられるようです。結局、

 どの仏様にも似ていない、大変不思議な仏様です。

 みちのくの仏様を見ていると、仏様をとカミ様を別のものとは考えない傾向が、より一層強いように思えます。

 吉祥天様は、毘沙門堂の新しい収蔵庫にいらっしゃいましたが、三熊野神社の境内にあり、神仏習合の形でお祀りされています。(御朱印も神社と毘沙門天様がセットになっていました。)

 この仏様を作られた方の心にも、強いカミへの思いがあって、それが自然と影響したのかなと思いました。
 
 兎に角、いつまで見ていても見飽きることのない、忘れられない仏様でした。

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 毘沙門天様の両脇にいる尼藍婆と毘藍婆は、胸の前で手をクロスしていますが、愛嬌のある顔をしているので、保育園児が、『おおきなくりのきのしたで』のお遊戯(「仲良く遊びましょう」のところです)をしているように、私には見えました。