安産寺 子安地蔵菩薩

 この仏様の素晴らしさは、実際に拝観しないと、分からないと思います。
 そして、安産寺のお地蔵様は、今までに、拝観した仏様の中で、私が一番好きな仏様です。

 近鉄の三本松駅からすぐ。安産寺はお寺と言うよりも、居心地のいい集会所のようなところでした。
 普段は住職もいらっしゃらないので、お電話をすると、自治会の方が、鍵を開けて、待っていて下さいました。

 お地蔵様は本堂とつながっている収蔵庫にいらっしゃいました。
 お会いしたとたん、包み込まれるような優しさに、言葉を失いました。そして、何故か、お地蔵様が何年も前から、ずっと私を待っていて下さったような気がしました。
 
 じっと黙ったまま、お地蔵様を見上げていると、お地蔵様もやはり黙ったまま、言葉を介さずに語りかけて下さった気がしました。「やっと来たな。」と。

 近づいたり、離れたり、斜めから見たり、明るくしたり、暗くしたりすることで、仏様の表情が変わって見えることを、自治会の方が、教えて下さいました。
 また、仏様の後にも回らせて頂き、この仏様が、大変優れた仏師の手によって、丁寧に作られた仏様であることも、よく分かりました。

 黒っぽいお体と、鮮やかな煉瓦色の衣のコントラストや、その衣の美しいひだは、いくら見ていても、見飽きることはありませんでした。 

 拝観に伺った際、初めに、御本尊様が、以前、NHKで特集された番組のビデオを見せて下さいました。その中で、どこかの先生が、「仏像は作られた時がスタートで、どれだけの人々に拝まれるかで、どんどん変わっていく。」と言われていました。

 本当にその通りなんだと思いました。安産寺のお地蔵様は、正に、ここ、三本松の集落の方々の、心の拠り所として、1000年以上も大切にされ、拝み続けられて来た仏様です。この仏様の神々しいまでの美しさ、気高さは、三本松の方々の、絶え間ない祈りの証なのだと思いました。
 何年か前、修理の為、奈良の国立博物館に行かれていたことがあるそうですが、「本当に仏様がいなくて大変だった。」と、言葉少なに言われていました。

 自治会の方のお話では、このお地蔵様は平安前期に作られた仏様で、近くにある室生寺の国宝の釈迦如来様に、お姿が大変良く似ておられ、もとは室生寺の仏様だったのだろうと言われているそうです。その証拠に、室生寺の金堂におられる地蔵菩薩様の光背は、仏様の高さと合っていないが、安産寺のお地蔵様が前に立つと、高さがぴったりなのだと、おっしゃられていました。

 お話しをお聞きして、室生寺の仏様のままだったら、こんな近くから拝観させて頂くことはできなかったと思い、有り難さがこみ上げてきました。お世話頂いた自治会の方に何度もお礼を言って、お暇しました。