『アルコール先生ピアノの巻』楽士のつぶやき
ニコニコ大会2024の3演目作品の演奏についての3連発つぶやきの最終回。
1回目『弗箱ラリー」、2回目『将軍キートン』はこちら。
イベント概要 予約完売いたしました。
第786回無声映画鑑賞会
1月30日(火曜)午後6時30分開演 (午後6時開場・終映予定9時5分)
日暮里サニーホール コンサートサロン
荒川区東日暮里5-50-5 ホテルラングウッド4階 電話 03-3807-3211
(JR鉄 京成線・日暮里舎人ライナー線「日暮里駅」東口より徒歩2分)
一般2000円 学生1600円 前売、電話&E-mail予約1500円
子供(中学生以下)1000円 会員優待券1000円
電話&E-mail予約は公演前日の午後6時まで受け付けます。
予約完売いたしました。
連続投稿の最終回は、『アルコール先生ピアノの巻』」です。原題は、His Musical Career。
チャップリンに音楽をつけるということ
ピッチについて
チャップリンの音楽には、最近、公共ホールなどでデフォルトとされているコンサートピッチの442Hzよりも、ユニバーサルピッチの440Hzが本当に合っていると思う。つくづく、思う。真剣に思ってます。だって、チャップリンが自分で弾くバイオリンをチューニングするときには、440Hzの「ラ〜」を頼りにしていたのですから…。
前公演の福島県須賀川市文化会館大ホール 無声映画上映会 すまいる座~みんなで感じて笑いましょう~では、大ホールのピアノも、シンセと同じ440Hzに調律していただきました。(リンクはnote記事)
ユニバーサルピッチA=440Hzは、1分間にラの音が振動する数が440ということで、1939年にロンドンで開催された国際会議で決定されました。最近では、アーティストの藤井風さんが、432Hzを使用されていることでも話題になりましたが、ピッチは、ショパンなどの時代は430Hzと言われていて、だんだん歴史とともに上がる傾向にあり、ちょうどチャップリンの時代には、各所で楽器演奏をするたびに、どのピッチで演奏するのか?大問題になっていたと思うのです。ちょうどその頃のアメリカでは、ヨーロッパ大陸から、輸入したピアノをお屋敷に置くのがステータスシンボルになっていたので、チューニングは鉄でできた音叉があれば良い方で、それぞれのピアノの置いてあるところで勝手気ままなピッチだったと思うのです。そんななか、そろそろ国際的にピッチを定めなきゃ!ということで、1939年に設定されたわけなので、チャップリンが映画を作っていた頃には、そんな侃侃諤諤な討議の真っ最中だったのではないでしょうか?
チャップリンは、作曲家であり、すぐれた演奏家でもあったので、音楽にもこだわりがあったと思われます。440Hzを美しく響かせるためには、必要な音のみで構成された和音が良いと思っています。主和音と属和音が、きれいに波紋を描くように調和して、その余韻が心に響く特性をいかした名曲がたくさん残っていますよね。最近はYouTubeのBGMにも、ラグタイムなど、チャップリンの時代の音楽が使用されているので、みなさんも耳に慣れていると思います。これらは、440Hzなのですが、何故、そんなに人気で使用されているか?というと、作曲者の没後70年が経過されているパブリックドメインだからです。
チャップリンが聴いた音楽
奇想天外なキートンの作品などでは、ワーグナー、ドヴォルジャークなど、無声映画時代にはそんなにポピュラーではなかったかもしれないクラシック音楽としては新時代のものも娯楽作品としてモチーフ挿入している私ですが、ことチャップリンに関してのみ、とても慎重な曲選びをこれでもしているつもりです。印象派くらいまでを今のところ目安にしています。
フットマンがいた!
2016年まで、幼稚園園長をしながら、時々、こども劇場などの公演をするミュージシャンをしていたので、映画は自分の子供達や友人が観たいものに付き合ったりすることの方が優先という立場でしたし、職務と子育てでいっぱいいっぱいで、一般の方が普通にご存じの事をわりと知らなかった!ということを、実は楽士として無声映画に関わるようになって初めて認識しました。
和物には、特に苦労をして、玉川太福さんの浪曲講座に通って、「曲師」とのコンビネーション、合いの手という文化をなんとか少しでも吸収しようともしました。西洋音楽については、音楽だけではなく、バレエや歴史的舞踏にも親しんでいたので、多少のアドバンテージがあると思ったら!タキシード、フロックコートなどの服装の違いが最初はとんとわからなかった!クラシカルな服装なのはわかっても、それが、お屋敷の主人なのか?使用人なのか?ぼんやりとしかわからない!私は、弁士さんが台本を執筆する前に参考として、演奏の通し録音をお渡ししたいと思っているので、その時点では、「タイムコード〇〇は、使用人?」とも聞きづらいので、アマゾンプライムなどの海外歴史ドラマで勉強させてもらっています。
本作を最初に拝見して、映画「アマデウス」にでてくるモーツァルトみたいな服と白い鬘をかぶっている「フットマン」を発見!心の中でガッツポーズ。
もう本作は、「フットマン」を弾くということが最初に私の脳内会議で決まりました。フットマン(従僕)とは、お金持ちの家の召使のうち、とてもコストが高い花形の職業で、背が高くて運動能力が優れていて、見た目がよくないと採用されない人材で、貴族などそのお屋敷でのアクセサリー的な存在の人です。本作に登場するリッチマンは、こってこてのフットマンを人間アクセサリーとして置いているくらいの「ザ・お金持ち」ということが服装や調度品でわかるのです。
いやぁ。チャップリン、うまいなぁ。ヨーロッパではなく、アメリカ新大陸でもなお、そんな鬘まで被せて、白いタイツを履かせてしまうような「フットマン」を置く「リッチマン」と、対比させた「プアマン」を描くなんてね。これは、お金の価値がよ〜くわかる音楽を添えてあげましょう!と腕がなるのです。
うそっこピアノ
併映作品の「弗箱シーモン」「キートン将軍」も、車、蒸気機関車、橋etcいろんなものが作中で惜しげもなくぶっ壊れます。でも、本作では、そんなにたくさんのピアノは壊れてないと思います。本作のYouTube ver.では、ラストシーンに池の中でのピアノがあるのですが、それもなんとなくですが、無事な気がします。ダメージを受けそうな場面のピアノの鍵盤は、よく見ると紙に描かれているだけのものです。何台かのピアノが撮影に使われていると想像されます。
・紙鍵盤
・はりぼてで鍵盤のみ本物
・本物のピアノで、弦(ピアノワイヤー)を抜いたもの
・破棄寸前の古いピアノ
・チャップリンが寝ているのは、木製鍵盤のピアノ
・店舗陳列 象牙鍵盤、マホガニー製、猫足ピアノなどのコレクションアイテム
フィルムの状態が良いものを大スクリーンに写して、ストップしてもらえたら、私は、その鍵盤数を数えたい!88鍵盤がデフォルトの現在と違い、その時代の鍵盤数は自由なのです。私は、よくビンテージピアノ展示スペースでは、「この線より前に出ないでください」のラインに陣取って、鍵盤の数を数えている怪しい人になります。私は、無声映画演奏のデフォルトは、電車移動のため61鍵盤シンセを、オクターバーボタンで88鍵盤分を演奏する苦労人なので、この鍵盤数情報は、とても気になります。
はみだしトピック 突然ですが実は、私は楽器もつくっています。
引用するクラシック音楽モチーフについて
チャップリンのテーマ オリジナルなのですが、私が弾くチャップリン作品はだいたいこのモチーフがしょっちゅうでてきます。本作では、チャーリーが脱いで筋肉をみせたりする「素」の部分を出しているようなところで登場します。
ピアノ運送屋さんのテーマ オリジナル 早めのラグタイム
親方のテーマ オリジナル ゆっくり バリエーション、レチタティーヴォ的な使用箇所
ラバがひく「ピアノ運送荷車」テーマ オリジナル 「ルンペン人生〜〜」の転用
リッチマン 即興 フットマンのクラシカルな衣装は、18世紀風なのですが、アンティークという事がわかりやすいように、「バロック」風に通奏低音と和音の即興にすることにしました。
プアマン 即興 イタリア移民かなぁと想像して、勝手にナポリ民謡風に
Maurice Ravel:Bolero チャーリーがピアノを担いで頑張るところ
Bizet:CarmenよりHabanera リッチマン家の女
デンツァ:フニクリフニクラ リッチマン家の追い出し音楽
Schubert:Ave Maria ラストシーン いれられたら
本作は、無声映画上映では、ほとんどが「ピアノ伴奏のみ上映」なのではないのかなぁ?と想像しています。活弁と共存する演奏だと、「浪曲」の曲師のように、「押し引き」の計算が必要なので、弾きすぎないことも重要だと思います。
上映当日は、Rolandoのシンセ JUNO-DS61にて、ピッチは440。音色は、以下の4つです。登場順にお知らせしますね。
1)ホンキートンクピアノ音色 19世紀の安酒場、西部劇などに登場する背が低いアプライトピアノを想像しています。ピアノのトップ部分はちょうどカウンターテーブルの高さなので、お酒のグラスなどを置くのがマッチするでしょう。映画「スコットジョプリン」では「掛けピアノ」のバトルも行われていました。ストライドピアノなどの超絶技巧、連打、ラグタイムのシンコペーションなどは、このようなバトルとして演奏されていた様子です。カツベン付きの無声映画上映では、弁士さんによっては、生演奏ではなくサウンド版に慣れている方もいらっしゃって、「シンコペーション」や、BPMが、変わることを嫌う方もいらっしゃいます。その都度、お伺いをたてて、キック音などを入れても差し支えないのか?というミーティングをしています。
3)JDピアノ ビンテージピアノをイメージしています。 当時のお金持ちの家にあった「ジラフピアノ」「リラピアノ」など、サスティンの多めの音色を真似ています。
4)コンサートグランデ 音響デザインされた大空間(大ホール)での残響音も含んだ音質の音色です。ラベルの「ボレロ」は、これを使っています。
JUNOの音色変換は、ボタン操作なので、弾きながら、空いている指が上のボタンに届くパッセージ中に押せたら押す、という感じなので、なかなかアナログです。ミュージシャン仲間には、「マニュピレーター」なしで音色切り替えをするので「素人か!」と笑われています(笑)。
追記
出演者の交代もあり、出演が叶わなかった澤登翠先生、山崎バニラ弁士へのお見舞いの言葉やお気づかいに感謝いたします。精一杯務めたいと思います。
坂本真理のホームページ(自営の音楽教室)
無声映画担当アーカイブ
主宰する民族音楽・古楽の教育鑑賞会用の楽団「ぺとら」
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