わが師は三度死ぬか?

 初めに言っておく。これはお気持ち表明であると。
などと、イエスのように切り出してみよう。そう、お気持ち表明である。
矮小で愚劣な、疑心に夜闇の中鬼見るようなイカレタ人間のつたないお気持ち表明なのだ、これは。それでもナニ嗤ってやろうという者は読んでくれるとありがたいこと限りのないことである。

 やや勿体ぶった書出しになってしまったが、先週の金曜日だか木曜日、覚えのない名前の者からいきなりLINEの通知がやってきた。
どうせまた出会い系か何かだろうと思ってブロックしてやろうとおもったが、文章の中にある名前にひたと手が止まる。
 高校時代の先生の名があるではないか。
どうやらひらがなでよくある感じな名前だけ書かれたその人は高校の同期だったようである。たしかに、そんな人もいたなぁ。こんな自分に(自分はそう思っているが)仲良くしてくれた子だったが大学進学を機にまるで交流がなかったから忘れかけていたな、などと思ったものだ。すまぬ。
 さて、その先生は担任ではなかったが、所属している芸術学科の中でも一案アクの強く目立つ先生であったためによく覚えている。
大学の最後の在学年次にあったのが最後だ。
定年退職で馬鹿げたガキの面倒を見なくてよくなったおかげで体調も食欲もがっつりとついてうんこがガバガバ出るわ!とすこぶる明るい笑顔で、高校の時分にはまるでそのようなことを言うようには思わなかった上品だが自信家であるその先生は言っていた。
 なんだ死んだか、葬儀の誘いか。
そう思って文章をよく読むと、

先生が余命で数年しか生きられないそうなので、教え子から何かしたい。
できることなら会いたい。そう思っているので
教え子たちの招集と、情報の拡散をしてほしいとのこと。

 なるほどなあ。と思いつつ、私はブラックなバイトやクソレズメンヘラ同期の粘着、モラハラアル中の父との兼ね合いにより大学を中退し、
今となっては美術の美の字もないただのヒトデナシである。
そのような教え子としての恥の塊のようなものがどの面を下げて会いに行けばよいのか。気分も悪くなろう。そう思って当たり障りなく
「いいアイディアが浮かんだら連絡します」とだけ返したのだった。

 2日後、激震。高校時代の友人で未だに交流がある人物が何やらLINEのトークで盛り上がっている。まぁ例によってあの件であろうと思い様子を見に行くと、どうやら先生に会いに行くための企画が発足しオープンチャットへの参加が求められているとのこと。友人のうち一人は非常に真面目で律儀な性格をしているので面倒だと思いつつも何の疑いもなく参加をしてきたそうなのだが、ディスコードへ急いでやってくるように言われ何かと思い参加すると、爆笑しながら彼女は言ったのだ。

「なんでwwwwwwww先生本人がグループに入ってるの?wwwwwwwwしかもwwwwwwwみんな名簿作るから名前言えって言ってるのにwwwwwwwなんか時分語りしまくってるwwwwwwwwwwww」

 なるほどなぁ。私であれば
「はーい!もうすぐ無精ちゃん死ぬみたいだからみんな集まって~!」
と言われて同窓会が作られたらたぶんその場で全員皆殺しにした後自決する。これは侮辱の域に入るのではなかろうか。
チャットのスクリーンショットをもらったが、先生自身
「そこまで重い病状ではなく、絶望的な入院生活ではないので心配しないように」と発言している。随分阿呆に対して気を遣ってくれるではないか。
私の脳内にいるあなたならば、「お前たちは本当に馬鹿だな!信じられねえよ」と嘲笑ってくれたものだろう。しかしながら話をきいた時点で60名近い生徒が集まっている場でそのようなことは言えなかったのか、丸くなったのかどうなのだろうか。
そして、彼女の笑い声は続く。

「オープンチャットでwwwwwww本名とww年齢とwww現在の職業・活動wwwwwwwwみんな書くの?wwwwwww」

ネットリテラシーがガバであらせられる。
急いでチャットルーム名で検索をしたが検索避けがされているらしく大量個人情報流出という大事故にはならなかったものの、今後が心配になる企画であることは私の中で確定したのでチャットルームに入るのはやめることにして、申し訳がないがまじめな友人に斥候となって情報を集めてもらうことにした私は、はたと気が付くのである。

こんなガバガバで狂った企画を立てたのは誰だ?
しかも「先生の残り少ない時間で悔いなく生きてほしいと思っています」
的な感じの上から目線終活企画。
 高校から大学まで、一つ上の学年に企画ものを考える腕が卓越した女傑がいたのを私は思い出した。高校時代から美術を志すものというよりはプロデューサーになりたがっていたあの女傑がよもや狂ってしまったのであろうか。いや、そんなことはない。ないと思いたい。私の憧れであり、目指すべき彼女がそのように唾棄すべき凡愚になり下がるなど。
そして私が我が斥候に情報を求めると出てきた名は、

クラス内で謎の署名を毎朝お願いしてきた
非常に政治くs……活動的な少女の名である。

それ、個人情報書き込んで大丈夫なやつですか?
 最近ファミマのお母さん食堂の名前を変えよう!という謎の署名活動があったが、その騒動の中で「私、友達の名前使って8回署名したの!」という衝撃的なtweetが駆け巡ったのは皆さん覚えがないだろうか。
そのアカウントは釣り垢では?という意見が多いそうだが、
私は今回の件でこれを思い出した。
 そもそもな話、先生の教えを受けた者は学科発足から11期生までだ。
名前と何期生であるかを言えばアルバムなり、学校に問い合わせるなりでそれが誰なのかがわかるのではなかろうか。
なにより、先生は学科発足時から定年まで生徒に美を説き続けた偉大な男である。高校側や、他の学科教諭に話を持ち出せば(まともな企画であれば)協力してくれるに違いない。

ではなぜ、本名と、年齢と、職業が必要なのか。
まさか、勝手に署名に使うのではあるまいな。

事実は小説よりも奇なりとはいうが、現実にいる馬鹿というものは、
時に想像を絶する馬鹿がいるのは昨今のバイトテロなどで皆解っているだろう。べつに、絶対奴ならやるとは言わないが、警戒していて損をすることはないだろう。というか話し合いの場が現在リテラシーガバガバネット同窓会になってるという報告受けてるし、信用する価値ないわな。

 ここからは少々私の考えを述べることになるが、こういった企画は普通、
該当の人物が死んだ後に【懐古展】などと称して行うものなのではないだろうか。余生の使い道というのはこれから死に征く者へ任せるべきであり、
その人物が芸術家ならば、如何に己を表現するか、
最期と決めて作品を残すなり、親しい者と満足ゆくまで交流をなすなり、
本人に委ねられ、助力が必要だと言われたならば杖となりて寄り添うのが遺されるであろう者のつとめだろうが彼らは今、杖どころか暴走したパワードスーツになっているのではないだろうか。

 人は二度死ぬ。
一度は生命活動が終わりを迎えた時。
二度目は忘れられた時。

 しかしわが師は今、死ぬより先に殺されている最中なのではなかろうか。
そのように思ったゆえ、急遽noteのアカウントを取得しお気持ちをまとめてみた。読みにくい文章ではあるが何か皆様の中で考えが浮かんだのであれば幸いである。
もしくは、私自身性格が悪いので企画に加担していると思われる絶縁した頭ハッピーセットな某同期と8年ぶりにレスバがしたいとこのさもしい脳が訴えているのかもしれない。

やっほー!TEちゃん、見てたら電話番号もツイ垢も
変わってないからレスバしようぜ!

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