毒島 愛倫

ショートショート書いてます。 落選作が溜まってきたので徐々に投稿していきます。 よかったら読んでください。

毒島 愛倫

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最近の記事

噂の種(ショートショート)

「はっ、はっ、はっくしょん!」  くしゃみが出る前に、反射的に手で口を押さえた。押さえた手には感触がある。多分、鼻水ではない。  そっと手を広げると、そこには種があった。まただ。  僕は窓を開けると、庭に向かって種を投げ捨てた。  何もなく殺風景だった庭には、今ではたくさんの花が咲いている。  父さんが病死すると、後を追うように母さんも死んだ。親戚も親しい友人もいないから、僕は一人ぼっち。  僕は人付き合いが苦手。そのせいで、子どもの頃はよくいじめられた。大人になってからも

    • バスフィッシング(ショートショート)

       俺の趣味はバスフィッシング。  今日は、友人に教えてもらった穴場の池に来ている。なんでも、大きなブラックバスが釣れるらしい。 期待を胸に池にルアーを投げると、すぐにヒットした。手応えあり、こいつは大物だ。数分の格闘の末、大きなブラックバスが釣れた。俺は上機嫌でスマホを出すと、写真に収めてSNSにアップした。  昼過ぎまでバスフィッシングを楽しんだ俺は、車に乗り家路に着くことにした。  帰り道、バスが前をとろとろ走っている。普段の俺だったらキレているが、今日は機嫌が良いから気

      • 増え鬼(ショートショート)

        「鬼だ! 鬼が来たぞ!」 村人が声を上げると、その場にいた全員が血相を変えて逃げ出した。  鬼は集団でやって来た。肌の色は真っ赤で、頭には二本のツノが生えている。 「父さん! 俺だよ、アキラだよ!」 「ダメよ近づいちゃ! もう父さんではないのよ! お願いだから戻って来て!」  必死に訴えかける母親。しかし、子どもは父さんと呼ぶ鬼に近づいた。 「う……うおぉぉぉぉぉ!」  子どもは鬼にタッチされると雄叫びを上げた。肌の色はみるみる赤くなり、ツノがニョキニョキと二本生え、子どもは

        • ぼくの声(ショートショート)

           最終回、ツーアウト。一点差。  相手ピッチャーは太田くん。太田くんはリトルリーグ界隈で名を馳せるピッチャーで、小学校を卒業したらシニアリーグの強豪チームに入ることが決まっている。そんな太田くん相手に最終回ツーアウト……勝負ありだと、ここにいる誰もが思っているだろう。  監督が立ち上がると、ベンチの隅に座っているぼくを手招きした。そして審判に「代打、伊藤」と、ぼくの名を告げた。  周囲がざわついた。交代したバッターは五年生の鈴木くんだったからだ。鈴木くんはこの試合で二本ヒット

          紙が飛ぶ村(ショートショート)

           僕は訳あって、ばあちゃんちに住むことになった。  ばあちゃんちはとっても田舎。バスを何度も乗り継いで山奥まで行くと、目的地のバス停に着いた。バスを降りると、ばあちゃんが出迎えてくれた。 「よく来てくれたねぇ、きょうちゃん。立ち話もなんだし、さっそくばあちゃんちに行くよ」  僕はばあちゃんに手を引かれると、草や木が生い茂る、獣道みたいなデコボコ道を歩いて行く。やがて視界が開けてくると、あたり一面に田んぼが広がる村が見えてきた。絵に描いたような田舎だ。  初めて見る田舎の景色に

          紙が飛ぶ村(ショートショート)

          塩対応(ショートショート)

          「生きることはつらいこと。だから、早く死んだほうがいい」  誰が言ったか知らないけど、この思想が広まると、老いを進ませるために、一日一回お風呂に入るような感覚で、塩に浸かるようになった。  塩に浸かると、身体から水分が出る。これを毎日繰り返すことにより、子どもと大人はシワだらけの老人みたいになる。そもそも、老人なんて存在しない。老人になる前に、みんな死ぬのだから。  兄さんは「こんなの間違ってる! 生きることは楽しいことだ!」と言って家出した。僕には、兄さんの言っていることが

          塩対応(ショートショート)

          家猫の住み方(ショートショート)

          「今日から新しい家族だ」  金曜の夜、パパが猫を抱えて帰って来た。 「あらやだ、連れてくる前に相談してくれればよかったのに」  言葉とは裏腹に、ママはとても嬉しそう。僕もペットが欲しかったから、猫は大歓迎。  猫は三毛猫で、気まぐれでマイペース。俗に言う、猫らしい猫だ。  最初のうちは、散歩に出てなかなか帰って来ないことがあった。そのたびに探しに行くのだけど、いつもひょっこり帰って来る。  飼い始めて何日か経つと、猫は家から出なくなった。家に馴染んだのだ。ソファー

          家猫の住み方(ショートショート)

          一家の大黒柱(ショートショート)

           長方形の棺桶が家に運び込まれる。棺桶が開くと、父さんはその中に入り、母さんと最後の言葉を交わす。母さんが涙ぐみ離れていくと、今度は兄さんが呼ばれ、父さんと最後の言葉を交わす。兄さんが険しい表情を浮かべ離れていくと、最後に僕が呼ばれた。 「お前はいずれ、この家を支えなければならない。幼いお前には、まだ意味がわからないと思うが、これだけは言っておく。父さんがこの家を支えている間は、お前は安心してそのときが来るのを待ちなさい」  父さんが言い終えると、村人たちは僕にここから離

          一家の大黒柱(ショートショート)

          コロブチカの流れる街(ショートショート)

          「風邪ですね、薬を出しておきます」 「ありがとうございますテトロ先生。ただ……」 「何でしょうか?」 「この薬は効き目があまりよくなくて……他の薬はないでしょうか?」 「イーストタウンの物資不足は深刻なもので……心苦しいですが、こんな薬しかないのです」 「そうですよね……では、ありがとうございました」 「お大事にしてください。また何かありましたらお越しください」 これ以上の処置はできないことを知りつつも、つい毎度のことのように言ってしまう。言い換えれば、『何もできないが、頼り

          コロブチカの流れる街(ショートショート)

          執行猶予村人五年(ショートショート)

          「俺が何したってんだ! やめろっ、やめろぉォォォ!」 勇者が聖剣を振りかざすと、スライムは一撃で倒された。 ――ロード中―― 一通りスキルが上がると、スライムは消滅した。 そこには金貨が一枚落ちていた。 ※ ゲーム依存性により、ゲームと現実世界との区別がつかなくなり、俺は大量殺人を犯した。 今の時代、ゲームやアプリが目まぐるしく発展したせいか、よくあることだそうだ。そんなわけで、刑法第3条の精神疾患の項目に、ゲーム依存性が含まれるようになった。つまり、俺は人殺しだが、

          執行猶予村人五年(ショートショート)

          ハロー警報(ショートショート)

          強い雨が降り始めた。僕はランドセルを傘がわりに、家を目指して走り出す。 『ハロー警報、ハロー警報、ただちに屋内に避難してください。繰り返します、ハロー警報、ハロー警報——』 けたたましくサイレンが鳴り、警報がアナウンスされた。思わず立ち止まり、最後まで聞いた。 僕は、『波浪警報』の聞き間違いかと思った。事実、ここから見える海は高波で荒れている。 ——彼女は無事だろうか? さっきまで一緒にいた彼女のことが気になり、僕は道を引き返そうとした。 と、そのとき。傘を片手に父さんが血相

          ハロー警報(ショートショート)

          折れても折れるな(ショートショート)

          チラシチャンバラ全国大会決勝。 相手は若手のホープ、タケシ。互いに棒剣を持ち向かい合う。 俺は全神経を研ぎ澄まし、棒剣に魂を込める。 するとタケシは、まるで俺を逆撫でするかのようにこう言った。 「ジローやぶれたり」 目上の人間に対して、なんて無礼なやつ。俺の心は乱れそうになったが、すぐに深呼吸して落ち着かせる。俺はベテランだ。この手の挑発には慣れている。それに、挑発なんてするやつの実力なんてたかが知れている。 だが、試合開始直後だった。 タケシの攻撃を受け止めた俺の棒剣は、情

          折れても折れるな(ショートショート)

          ニセ巌流島決戦(ショートショート)

          「タケシ、巌流島で会おう」 あの日、俺とジローは熱い約束を交わした。   出会いは中一の春だった。 部活動紹介で、俺の心を射止めたのは野球でもサッカーでもなく、『チラシチャンバラ』だった。 チラシチャンバラとは、チラシを丸めて作った棒でのチャンバラもどきな遊びからヒントを得て、競技化されたものだ。 当時は正式な競技として認可されたばかりで、マイナースポーツとして世間で認識されていた。だがプレゼンで行われた先輩達の試合を見て、俺は少しだけ興味が湧いた。理由は単純で、何となく面白

          ニセ巌流島決戦(ショートショート)

          先生! ホシを見せてあげる(ショートショート)

          ある保育園での出来事。 「先生! ボクのパパ、スゴいんだよ」 「あらぁ、けんたくんのパパはスゴい人なのね。何がスゴいのか先生に教えて」 「うん、パパはスゴいんだよ。だってね、この前ホシを捕まえたんだ」 けんたくんは嬉しそう。ホシなんて捕まえられるわけないじゃない。でも、子どもの嘘には慣れっこだから、わたしはこういう時、どんな反応すればいいのかだいたいわかってる。 「ホントに? スゴいスゴーい! 先生ホシは見たことあるけど、捕まえたことないなぁ」 こうやって両手を広げて、大袈裟

          先生! ホシを見せてあげる(ショートショート)

          チュウチュウトレイン(ショートショート)

          『ゴーゴーゴーゴージャンケン列車 今度の相手はキミだ』 身長は二メートル近くあるであろう、全身ムキムキの男がパパの前で立ち止まる。男の後ろには生気のない人々が、肩を持って一列に並んでいた。 「ここは危険だ! 離れてなさい!」 パパは上着を脱ぎ捨て上半身裸になる。筋肉の質なら男に負けていない。 僕はこの場から離れられなかった。男から漂う禍々しいオーラが、僕をこの場に縛りつけていたから。 ――大丈夫、パパならきっと―― パパは今まで見せたことのない鋭い眼光で男を睨みつけると、拳に

          チュウチュウトレイン(ショートショート)

          サクラサク(ショートショート)

          三月下旬、桜が咲いた。 花びらの中には人がいる。 彼ら、あるいは彼女らは、目を瞑り、体育座りをして、そのときが来るのを待っている。 黒い法被を着た男がやってきた。 「女のサクラを一体もらおうか」 「はいよぉ! 今用意しますんで、少々お待ち!」 商人は意気揚々と花びらに手を入れ、慣れた手つきで私を取り出した。 眠りから覚めた私は、太陽の光を浴び、身体が大きくなる。そして、成人女性の身長くらいになると、成長は止まった。 「おいおい、裸じゃねぇか」 「すいませんねぇ、なんせ採れた

          サクラサク(ショートショート)