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Journal of "Tokyo Good Morning" vol.01
2025年2月27日(木)から東京・三河島のアートスペース「元映画館」で上演する新作『トーキョー・グッドモーニング』。本作のクリエイションの過程に伴走してくれるつちやりささんによる稽古場レポートを、Journal(ジャーナル:日々の出来事を記録するもの)としてお届けします。
———プロローグ
稽古場まで、山手線で向かう。隣に座る人、向かいに座る人、前に立っている人、いま乗ってきた人、降りてゆく人。みんなにとって、ここはどんな場所なんだろう?いま暮らしているまち、生まれ育ったところ、働く場所、旅の目的地。
「このまちのことを表現するときに、あなたはどんな言葉を使いますか?5つ挙げてみてください!」たとえばこの車両の中でみんなに問いかけてみたときに、何通りの言葉が出てくるだろう?たとえそれがみんなばらばらで、どんなに矛盾だらけだったとしても、きっとそれらすべての言葉が、このまちのほんとうなんだと思う。
みんなが選ぶ言葉がまちに溶け込んで、風景の一部となる。日々たくさんの人が訪れ、たくさんの人が去ってゆくこのまちの景色は移ろいやすい。今日はどんな表情を見せてくれるだろう。トーキョー・グッドモーニング。
———1/28(火) かぜのあるところ
カゼクサ、という名前の植物があることをはじめて知った。衣装を担当する伏尾さんが作ったという水色のかばんに、カゼクサが刺繍されていた。知らなかった、と思っていたけれど、あとで調べてみると、そのあたりにごく普通にはえている雑草なのだという。きっと気づかないうちに、わたしも目にしてきたんだろう。名前を知ると途端に意識が変わる、ということがある。
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たとえばなんですけど、とその刺繍を見せながら、今回はこんなふうに、ひとりひとつずつ植物を選んでもらって、そのモチーフをそれぞれの衣装にあしらえたらと思っています、と伏尾さんが話す。外に向かって示す、というイメージではなくて、内側に向くような、おまもりみたいなものとして。伏尾さんが、自分のノートにメモしていたレヴィ=ストロースの『野生の思想』の引用を読んでくれた。
𓆸 𓆸 𓆸
オマハ・インディアンは、「インディアンは花を摘まない」という事実を白人と自分たちの主要な差異の一つとしている。花を摘まないというのは、なぐさみには摘まないという意味である。植物には、それぞれの隠れた主人にしか分からぬ神聖な用途があるからである。
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みんなが思い思いに植物の名前を口にする。自分の名前から連想する人、育てている花を思い出す人、タトゥーとして体に刻まれた花を見せてくれる人。木でも良いですか?スカンクさんが尋ねると、できれば植物でお願いしたいです、と伏尾さんが答える。育てている植物と、散歩で見かける植物は、少し違うと思うんですけど、どっちを選ぶのがいいですかね、という黒木さんの質問に対して、伏尾さんは少し考える。今野さんが、みんながいっしょじゃなくてもいいんじゃない、それぞれで、と言うと、うんうん、いいと思います、と伏尾さんがはっきりうなずく。どこまで手放さずに、どこから委ねるのか。その感覚の確かさのようなものが、伏尾さんのなかにある。
みんなが発表の準備をしているあいだ、今野さんと話をしていた。どうしてこのタイトルにしたんですか、と聞くと、ここにいるうちに一度やってみたかったんだ、と今野さんが言う。だからといって、この作品でずっとそのまちのことを描くというわけではない、と今野さんが続ける。この土地のことをちょっと考えておく、思っておく、ということが大事なこと。直接的に表現をしなくても、頭の片隅に置いておくこと。一度知ったこと、経験したことは、どうやっても無視することはできないから。今野さんがそんなことを話してくれる。それは気配のようなものかもしれない、とわたしは思う。「ここ」について考えることは、「ここではないどこか」に思いを馳せることでもある。
今日は日記から発表を作った。橋本さんは、菊沢さんの1月17日の日記を選んだ。菊沢さんの職場での何気ない一日を切り取ったその日記から、菊沢さんが日々どんなことを考えて、どんなことをたのしみにして、どんなことに気を配っているかがよく伝わってくる。はじめまして、と挨拶したばかりの人が、急に近しく感じられて、その存在をとても愛おしく思う。道端ですれ違う人、ひとりひとりのそんな話が聞けたなら、このまちの様子はぜんぜん違って見えるんだろう。「風速15m」菊沢さんの一日の中で、大事な指標となる数字。風、というものを、わたしはあまり意識せずに生活してきた。風速15m。どれくらいの速度なんだろう。想像してみたけれど、わからなかった。これから先、風が強く吹いた日には、菊沢さんのことを思い出すのかもしれない。
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(執筆・写真:つちやりさ、カバー写真:Ralph spieler)
『トーキョー・グッドモーニング』公演情報
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なんでここにおんねや/誰や/知らんか/ええよ
声かけてみよか/返事なくてもええやんか
おはよう
イントネーションどこの国のやつでいく?
西から東から北から南から
中心から逸れたトーキョーボディ
全然やってこない星たちはいまも上にあって
真っ白に落ちてきたもん口に入れる
おはよう
死なんて遠くに追いやって
生きてるものが、おめでとう、ありがとう
◆クレジット
演出・照明:今野裕一郎
出演:菊沢将憲、黒木麻衣、坂藤加菜、佐藤駿、スカンク/SKANK、中條玲、橋本和加子、本藤美咲
音楽:コルネリ、高良真剣、中村太紀
美術:岩村朋佳
音響:岡村陽一
衣装:伏尾奏美
◆会期|2025年2月27日(木)〜3月6日(木)
2月27日(木)19:30-◉(早割)
2月28日(金)19:30-
3月1日(土)13:00-/18:00-☆(アフタートーク|ゲスト:横浜聡子)
3月2日(日)13:00-/18:00-
3月3日(月)休演日
3月4日(火)14:30-/19:30-
3月5日(水)14:30-/19:30-
3月6日(木)14:30-
受付開始・開場は開演の30分前
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