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【パン:愛することと不安になること】
焼けた小麦とバターの香りが午後の窓辺に見てとれるよう。木目の棚、パンに反射するオレンジ色の、このお店のパンはわたしの午後の微睡に鮮やかさをもたらしてくれる。お店の中には餡やレーズンの比重の重いアロマの層が閉じ込められてらいて、扉の外とは違う世界に誘って。
トング。カシャッと軽く噛み違えるトングで丁寧にパンを掴んでトレーに乗せる。
クロワッサン、ふっくらパリッとかわいいコロンコロンのを選んで、慎重にトレーに乗せて、どうかこのトレーからすべり落ちませんように。心なしか歩幅が小さくなって、そろりと歩く。
ウグイス豆の白パンもある。きっとね、このウグイス豆はほんのり甘くて白パンの生地の中の少しの塩味の作る輪郭に春の豊かな木の芽のように香るのね。トレーの上に仲間入り。
サンドイッチ。ハムときゅうり。パン屋さんのサンドイッチ。パン屋さんの焼いたパンをお料理したもの。そしてそのサンドイッチをさらにサンドする我が上顎と下顎の狂気。ここまで。もっと買いたいけれど美味しく食べれる分が今日の分。
茶色い紙袋に入れられて、可愛く焼けたパンたちはまるでカゴの中のヒヨコのように溢れんばかりに輝いて、わたしの目は豊かに満たされる。
お店を出て少し歩くと大粒の雨が落ちてきた。
それは本当に大きな雨粒で音を立てて降り続く。
わたしはパンを抱き包む袋を、どうか濡れませんように、その一心で抱える。どうかこの生まれたてのパンがこの雨でダメになってしまいませんように。
祈った。
【おしまい】
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