アンジー。daichead a cúig
いびつな形の狭い空間だった。アンジーの衣装とメイク道具が置いてあっても楽屋とは呼べないよなあ。木箱がいくつも置かれていて、ルーの座ったソファーなんて置いてあるというか、捨てるのを忘れてたみたいな古び方をしている。ドアに付いている金具は鍵というには簡単すぎだ。
それなのにルーったら、
僕、ここで寝泊まりしてもいいよねえ?
だって。
フイッシュ&チップスとミルクティーを持ってきてくれたおにーさんもびっくりしてる。
ここでかあ?うちは構わないけど、こんな吹っ飛ぶようなドアしかないし不用心だと思うけど。なんだよ、ショーンと喧嘩でもした?
喧嘩なんかしてないもん。
ああー。
ショーンのいる部屋からここに来るまで、昨年まではパブのおじいちゃんのとこに泊まってたって話してて、泣いた後のご機嫌になろうとしてるこの感じ、久しぶりだな、とか思ってたのに。
ルーの目に涙が盛り上がってくるのを見て、僕にウインクをしておにーさんは出ていった。後はまかせたってこと?
あ、アップルパイがあるよ、頼んだんだっけ。でも揚げたてのポテトから先に食べようか。どうする?やっぱりアップルパイから先に食べる?ルー大好きだもんね。
パイをひと口分をフォークに刺してルーの口もとに差し出した。
ぱくり。
泣く、が三十パーセントぐらいで止まった。アップルパイ万歳。
ルーもお腹減ってたんだ。おいしい?
ママのがもっとおいしいもん。
そう言いながらも、自分でパイに手を伸ばしてる。
ルーの横に座るとソファーが嫌な音を立ててきしんだ。
ほんとにここに泊まるの?
うん、今日はすぐ寝ちゃったけど、いつもの酔ってるショーンはもっと怖いもん。
そっか。ショーンが空港まで送ってくれることになってるから、少し話してみるよ。きっとたいしたことじゃないよ。大丈夫だよ。
て、僕の分のパイを持ったまま寝てる。え、泊まるって今日から?
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