アンジー。tríocha a ceathair
イーニエが戻ってくるまでずっと、ルーは僕の手を取って話を聞いてくれた。時折、鳥の声が聞こえるだけだった。
ただいまー。お腹へったー。たぶん、スナップも。
そのスナップとやらは定位置とでも言うように僕の足元に走りきて座りこみぱたぱたと尻尾を振っている。
ひ、人懐こい犬だね。
セジュのこと覚えてたんだ。ね。
え?
前はころころのおちびちゃんだったの。覚えてる?
あー!
おっきくなったしわかんないよね。すっかり僕みたいなおじさんになりました。
そう言って笑うルーは全然おじさんじゃなかった。ほっそりとしていて無造作にひとつに束ねた髪にもきたならしい感じがしない。イーニエが食べようとしたチーズケーキを取り上げて
だめ、これはアルコールが入ってるから。今ポテト揚げてあげるからりんごでも食べてて。スナップにもおやつとお水をお願い。
割とちゃんとパパみたいなこと言ってる。
セジュ、チーズケーキ食べる?
りんごを食べながらイーニエはよく喋った。にぎやかに話しながら僕とルーの個人情報をあっさりと交換していった。
イーニエがアイルランドに来てからはルーに恋人はいたことがないけど、時々変なヤツにつきまとわれたりすることがあるとか、たぶんパパとママはよりを戻すことはないとか、なぜなら、ママがルーの話をするたびに眉間にシワがよるからとか、僕が一年前に離婚したこととか、双子の娘の名前とか、奥さんが残していった小さい犬を飼ってるとか、イーニエ本人は、ルーが作るアイルランド料理に飽きてきてるとかとかとか、チキンが食べたいんだって。帰ったら調味料を送る約束をしてしまった。
ショーンに似てる。
そうなんだよ、ショーンおじさんの息子か、ってよく言われる。いいんだけどさ、ショーンおじさんかっこいいもん。
イーニエのパパは僕なんだからね。
ルーが勢いよく山盛りのポテトをテーブルに置いた。
そんなにむくれちゃって、なんだかかわいらしいパパだねえ。
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