シカゴ詩集
いつも子どもを寝かしつけてから家事をしたり内職をしたり本を読んだりするのだが、昨日は疲れていたのか、寝かしつけと共に自分も寝入ってしまった。
長く寝たせいか、優しい夢を見た。
夢の中のわたしは、まだ子どもである。手をひく母もかなり若い。場所はおそらく地元だろうと推測する。日が射すと風景が霞む、平凡な住宅街。わたしの記憶の中の地元が、忠実に再現されていた。
まだ若年のわたしに、何故ふるさとへの感傷があるのかと言えば、たった九年間しかそこに住んでいなかったからだ。高校進学と共に地元を出てしまったのである。それは自分が選んだ最良の選択で、今なお後悔はしていないのだが、それでもわたしは地元と、そこで過ごした母との日々が、懐かしくてたまらない。
母と過ごした日々は、あまり幸せとは言い難いものだった。けれど、殺伐とした日常の中にも、僅かながら、優しい時間が存在した。太陽の光をうけたお布団みたいな、暖かくて柔らかい記憶。まだ若い祖父母、叔母、従兄弟。幼いわたしをわたしたらしめていた人間関係、日常。
過去は流れていく、手にしたものは全て離れていく、それは新しく出会うものも同様に、けれど生活はやってくる。家庭を営みながら、ぽちぽちと仕事を手伝いながら、息子の入園式の準備をしながら、わたしは日々を生きている。みんな老いていく中で、かつて完全だったものがゆっくり変形していく中で、命が続いていく。あの日々から続く、わたしの命が。
それはなんて不思議なことなのだろう。
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