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短編日記まとめました

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<短編日記>MEMORIES

季節は忘れた 運転していると 時々水中にいる様に視界が歪む 車は傷が多い 生きている実感を何とか保っている 生きる屍のようだと 1日に何度も思う すっかりサボり癖がついてしまっていた どうしようもない気持ちになった時 会社から少し離れた海へ行く 松林を抜けた先の小さな浜辺 いつもの灰色の空と海 白く曇った空気 小雨が降ったり止んだり 車から降りて 階段を登り まずは海全体を眺める 人気は少なく 人と会うときは大抵 犬の散歩か 同じようにサボる人たちが 車の中で寝ている

<短編日記>ユーミンわかめ

卒園式の歌は、ユーミンの「春よ、来い」だった。 模造紙に書かれた、ひらがなの歌詞を目で追いながら歌う。 意味なんてわからず、朝と帰りに毎日歌う。 「あわき ひかりたつ にわかあめ」 「淡き光立つ煮わかめ」 沸騰した湯の中、 ワカメが茹でられ、茹でられすぎて、ぶよぶよになって、湯気の中、鍋の水面が光の反射でキラキラと輝いている。 そんな映像を思い浮かべながら歌っていた。 彼女は、祖母のつくるワカメの味噌汁を見ると、たまに歌を思い出す。

<短編日記>U・F・O ミタ

眠くなるようなぬるい風と暖かな日差し。 長椅子が並ぶ校庭。 卒園前の集合写真撮影が行われていた。 彼女は他の組の撮影が終わるのを、プラスチックのカバの遊具に寄りかかり待っていた。ぼーっとしていた。 「あれUFO?」 同じクラスの、前髪ぱっつんの男の子が、 彼女の後ろの空を指していた。 彼の声に気づいたのは、 彼女と、もう一人近くにいた男の子だった。 屋上プールの、もっともっと高い空に 黒い丸が、ぽっかり浮かんでいた。 黒い丸は、モヤに包まれていて ものすごい勢いで回っ

<短編日記>大学生

私の部屋は3階。 南向きのベランダ。 初めて買った植物を窓際に置いてある。 大きく育っていつかジャングルになるかも と妄想する。 女性専用アパートだけど、 たまに誰かの恋人とすれ違う。 終電の音が聞こえる。 ホームの電灯が今消えた。 夜は楽しい。眠るのがもったいない。 入学祝いのパソコンで、 知りたいことを何でも調べる。 みんな誰かと、こんなことしているのかな。 気になっている先輩からもらった 青のエレキギターを少し鳴らす。 好きな曲の初めの音だけ弾いてみる。 私こん