たとえば、大切な誰かに
ひとつの宝石をもらったとする。
大切な人にもらったものは大切にしたい。
だから毎日、ピカピカになるまで磨く。
宝石のキラキラを眺めながら、そーっと優しく磨いているその時間が、私にとって、何より幸せだ。
そのピカピカの宝石に触れようとした大切な仲間の1人であるセン(ここではそう呼ぶ)がこう言った。
「君の大切なものなんでしょ?私にも磨くの手伝わせてよ!」
センに喜んでもらいたい私は頷いて宝石を渡す。
センは思った通り、ゴシゴシと宝石をこすりはじめる。
大切な宝石にはどんどん傷がついていく。
私は「ありがとう」とだけ言って、宝石を受け取る。
センは「いえいえ、ただ私がやってあげたかっただけだから、お礼はいいよ」と言う。
私の中では、つるりと触り心地がよくてピカピカ光る宝石が綺麗だと思っているけど、センのセカイでは、ギザギザの方が綺麗とされているのかもしれない。
私は宝石の傷ついた部分をお家で削った。
これもきっとお手入れのうちだ。
そう思って削った。
幸せな時間ではなかった。
宝石はもらったときよりも少し、小さくなった。
💎
ある時、大切な友達のクロが宝石をみてこう言う。
「大事な君の大事な宝石を傷つけるセンが許せない!もしもまた同じようなことがあったら、宝石箱に鍵をかけて、誰も触れられないように閉じ込める!」
その隣で大切な友達、アオが言った。
「そんなことしたらどんどん錆びて、一生綺麗な宝石になんてなれないわ。毎日持ち主が磨くほうがいいにきまってるよ!もう宝石は誰にも渡さなくていいからね!」
私の大好きな人たちが、わたしの大切な宝石のせいで、声を荒げている。
大切な人の大切なものだからだ。
大切なのは同じでも、大切にする方法は、それぞれ。
じゃあどうすれば、みんなで大切なものを大切にできるんだろう。
私は宝石を大好きなガーゼでくるんだ。
今日は宝石を磨かなかった。
🧼
しばらくしてから、私は宝石を両手にのせて、泣いた。
涙が宝石に一粒、二粒と落ちるにつれて、少し小さくなった宝石はキラキラと光った。
こんなにも綺麗に光ったのははじめてで、私は前よりももっとこの宝石を大切に思った。
毎日ていねいに磨いて、宝石をピカピカの状態にすることだけが、私にできる事だと思いこんでいた。
でも、みんなにまだ、私の大切な宝石のどんなところが美しくて、毎日どうやって大切にしているかを伝えていないことに気付いた。
だけど、伝えたくても私もまだ大切な宝石の全部を知らない。
知らないから、もっと、どんな色に光るのか、どんな場所が似合うのか、みんなと探したい。
そんなことを思いながら、私は雲ひとつない空の下で、木漏れ日を眺めていた。
両手の中にある宝石をふと見てみると、一筋、傷がついていることに気付いた。
私は、また磨かなきゃ
とはもう思わない。
なぜなら、その傷に反射した太陽の光が、見事に綺麗で、それを見ていると心が癒されるからだ。
今日はここまで。
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