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Thom Yorke EVERYTHING 11/15 東京

 トム・ヨークの初ソロツアーに参加してきた。場所は LINE CUBE SHIBUYA。昨年に羊文学のコンサートを訪れて以来、約1年ぶりの来場となる。

 トム・ヨークと言えばザ・スマイルのボーカルとして現在精力的に活動しているが、何と言ってもレディオヘッドのボーカルとしてのキャリアが名高い。今回は公演の記録と感想をまとめたい。レディオヘッドに対する愛が溢れてしまうかもしれないが、暖かい目で見守っていただけると嬉しい。



会場に対して思うこと

 ペットボトルの持ち込みが禁止されていた。特に事前連絡も無く、細かい注意事項まで目を通せていなかったので、持っていたペットボトルを没収されてしまった。純粋にステージへの投げ込みを防止するためだろうが、会場内の自動販売機の使用も禁止されている状況で水分補給が一切できない環境はライブ会場としてどうなのだろう? と考えてしまった。多くの人が会場外で水分を一気に補給した結果、公演中にトイレに行く方が多く、場当たり的で本末転倒な対策と感じてしまった。
 また、LINE CUBE SHIBUYA は席間距離が狭く、座席から起立してしまうとかなり見えづらくなる。そのことで、私の両隣の方々が少し揉めていた。座りながら鑑賞したい人もたくさんいるはずだ。これは起立した人の問題ではなく、会場とコンサートの相性の問題と思う。なかなか難しいことかもしれない。


みんなレディオヘッドが好き

 参加する前から予想していたことではあるが、レディオヘッドの曲になると周りが前のめりになる。その最初が『Let Down』だ。アルバム『OK Computer』に収録されており、『Paranoid Android』や『No Surprises』と比べると目立たないが、コンピュータサウンドに傾倒しつつあったトム・ヨークの姿勢を感じ取れる一曲だ。

 アルバム『The Bends』に収録されている『Fake Plastic Trees』も見逃せない。サビのファルセットが美しい一曲だ。


意欲的な姿勢が垣間見えるソロ活動

 ソロの楽曲は、トム・ヨーク自身の旺盛な曲作りを感じさせるものが多く、聴いていて面白い。時にはヒップホップ調のミュージックに身を委ねながら、観客を巻き込んでいく様が印象的だった。特に『Dawn Chorus』という曲は、エレクトロニカに舵を切ったレディオヘッドの色が強く残っており、気に入った。


畳み掛ける『Kid A』

 ラスト2曲がともに『Kid A』からの選曲で、『Idioteque』からの『Everything in Its Right Place』。曲調はとても明るいとは言えないが、観客の盛り上がりは凄まじく、この2曲で殆どの人が座席から立ち上がったと言っても過言ではない。『Everything in Its Right Place』のイントロの完成度にはいつも惚れ惚れする。

 アンコールのトリを飾る曲は『How to Disappear Completely』だ。タイトルも、またその厭世的な歌詞も、公演を締めくくる上でこれ以上無い選曲だろう。

 少し脱線するが、「サカナクションの『流線』(アルバム『DocumentaLy』収録)はレディオヘッドの『How to Disappear Completely』をオマージュしているのだろうか」と長らく思っていたが、同じ事を考えている人が X に居た上に、17歳とベルリンの壁のギターボーカルであった。奇しくも私の好きなシューゲイザー・バンドだ。

 レディオヘッドのアルバム1枚を選ぶとすると、確実に票が割れることが知られている(『OK Comuputer』『The Bends』『In Rainbows』…)が、私は『Kid A』がダントツに好きだ。エレクトロニカはその特質上どうしても明るくなりがちだが、『Kid A』はむしろ不気味さ・陰鬱さを全面に押し出している。ギターロック出身で徐々に軸足をエレクトロニカに移してきた彼らならではの強みだ。音楽キャリアの中でここまで音楽性を変え、常に前衛的な音楽に挑みながらも、聴衆の耳を掴んで離さないミュージシャンは稀有だ。


終わりに

 個人的な話になるが、レディオヘッドを聞き始めた頃は、何が良いのか理解できなかった。周りが言うほど素晴らしい音楽なのか……? 特に『Paranoid Android』は、転調が繰り返されて安心して聴けなかったのをよく覚えている。そんな時に以下の記事に出会い、みんな感じていることは一緒なのだなあと安心した。

 ようやく彼らの音楽の醍醐味に気づいたときには、その飽くなき探究心・緻密な音作りに惚れ込んでしまっていた。2年前にシガー・ロスの単独公演に参加したが、その時と似たような感覚を覚えている(トム・ヨークはシガー・ロスを絶賛している)。音楽はわかりやすく盛り上がるためにあるのではない。ミュージシャンと観客が一体になって音楽に身を委ね溶かす。その中で見えてくる良さだってあるはずだ。


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