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カバー曲が照らす原曲の輝き

 カバー曲は時として原曲を上回る感動をもたらす。心に残るカバー曲を聴くと、原曲とカバー曲を行き来しながら、その楽曲に溺れてしまう。カバー曲が原曲の玉を磨き、その原曲がカバー曲をさらに彩る。この相乗効果こそがカバーの醍醐味である。私が最近身を溶かしたカバー曲を5つ紹介したい。

SUPER BEAVER / コイスルオトメ(原曲:いきものがかり)

 通勤電車内でSpotifyのプレイリスト「J-Rock ON!!」を聴いていた時に本曲が流れ、あまりの衝撃に繰り返し聴いてしまった。『コイスルオトメ』はいきものがかりの3枚目シングルであり、世間的にブレイクする前ではあるが、本曲が収録されたアルバム『桜咲く街物語』も含めて、今でもファン人気の根強い時期だ。ギタリスト・水野良樹氏はこんなにも純愛に満ちた女の子目線の曲を書けるのかと、初めて聴いた時に驚いた記憶がある。だからこそ、ボーカル・吉岡聖恵氏が歌うと、ピッタリはまる。一方、SUPER BEAVER の場合には、掻き鳴らされるギターから勢いを感じさせ、渋谷龍太氏のしゃがれた歌声がそれにマッチする。純愛と言うと可愛らしく穏やかなイメージがあるが、実のところ内心は激動に近いんだろう。渋谷龍太氏の歌い方はむしろ本質を突いているのかもしれない。

CVLTE / Passion(原曲:宇多田ヒカル)

 キングダムハーツの主題歌としても知られる本曲は、自由で不思議なリズム感が特徴的だが、今回は歌詞に注目したい。Cメロの「ずっと前に好きだった人 冬に子供が生まれるそうだ」から始まる歌詞に、切なさよりも力強さがこもる。宇多田ヒカル氏が歌うと「あの時はどうしようもなかったんだ」という諦観を感じさせるのだが、CVLTEのボーカル・aviel kaei 氏の場合には「どうしてあの時に間違った選択をしてしまったのか」という後悔を感じる。カバーならではの新しい解釈を生み出す面白さだ。

Luby Sparks / Maps(原曲:Yeah Yeah Yeahs)

 Emily 氏をボーカルに据え、シューゲイザー色を全開にした Luby Sparks の 1st アルバム『Luby Sparks』を世に放ち、Emily 氏の脱退後に Erika 氏がボーカルとして加入してからは、シューゲイザーの核を守りつつも、より幅広く音楽活動を展開している。2nd アルバム『Search + Destroy』でも魅せたように Erika 氏の歌声には確かな芯があり、寛容さと情熱が宿る。Yeah Yeah Yeahs の Karen O 氏が歌う時は、非常に繊細で壊れそうにさえ思ってしまうのに。『Maps』は Yeah Yeah Yeahs の代名詞的作品であるからこそ、それをカバーした Luby Sparks のひたむきな敬意を感じずにはいられない。

ヨルシカ / Make-up Shadow(原曲:井上陽水)

 この曲を井上陽水氏が世に放ったのは45歳の時。男女の駆け引きを静謐な言葉で紡ぐ才能は相変わらずピカイチだ。「初めての口紅の唇の色に 恥じらいを気づかせる大人びた世界」―井上陽水氏が歌う時は大人の余裕さえ感じさせるのに、ヨルシカのsuis氏の場合は純粋無垢で眼の前のことに必死な様子が醸し出される。n-buna氏の奏でる少し急ぎ目のギターがさらに拍車をかける。演者の年齢の差異が、楽曲で展開される世界のタイムスケールに影響するのも、音楽の面白さだ。

MARETU / 再演(原曲:Akali)

 VOCALOIDの楽曲からセレクト。Akali氏は本曲の発表当時、RINGOという名前で活動しており、MARETU氏からの影響を明言しながらも、独自の不安定な調教で世界観を確立する作詞家・作曲家である。音街ウナの調教ということもあるが、舌っ足らずで幼稚な女の子がダダを捏ねているような心象風景が広がる。メロディラインもどこか重く不気味な雰囲気が漂う。一方、MARETU氏のカバーは、余裕のあるのびのびとしたイメージ。"MARETU節"とも呼ばれるポップとロックの間を行き来し続ける進行もしっかり根付いている。そのポップさの影に不穏さが潜んでいる。

終わりに
 オリジナル曲を聴いていくならば、そのミュージシャンのシングルやアルバム、時にはライブDVDなどを紐解いていくのが一般的であるが、カバー曲の場合はそうはいかない。最近はカバーアルバムが作られるようになったが、系統的に聴いていくのは難しく、1つ1つの楽曲を自分で探して味わっていく感じだろう。とはいいつつも、カバー曲という名目でキュレーションされたプレイリストも最近増えてきたので、以下に2種類紹介しておく。

 カバーの世界は奥深い。世の中に出てきた素晴らしい楽曲たちをもっともっと聴いて、この世界を楽しみたい。


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