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【アッセイを考える #1】遺伝子ノックダウンとタンパク質阻害は同じようで違う?

 合成生物学に携わる上で、自らアッセイを考えて構築することは避けて通れない。教科書的な知識のみを頼りにしていると、実際にアッセイを成功させるのは難しかったりする。そこには、ある種の「分子生物学的な感覚」が必要なのだろうと思っている。
 そこで今回から、「特定のアッセイニーズを含むお題が与えられた時、どのようなアッセイを考えるか?」という思考実験を展開してみたい。回答はあくまで例であり、答えよりもむしろ思考過程に重きを置いている。具体的で明確なビジョンが描けているわけではないが、自分のやる気が続く限りこの取り組みを継続してみようと思う。これは無論、自分自身のカルチベートをも意図している。



【問題1】

 ある細胞の必須遺伝子Aについて、細胞内における機能を知りたい。どのような方法が考えられるか?



【回答例】
 遺伝子Aは必須遺伝子であるため、ノックアウト等で取り除かれると細胞が増殖できず、遺伝子Aの機能を推定することができない。それ以外の方法で検討する必要がある。

1.CRISPRi により遺伝子の転写を抑制する。
 遺伝子が機能を発現する時、まず転写が起こる。その過程を抑え込んでしまえば、遺伝子の機能を失った時の表現型を観測することができる。逆に、CRISPRa により遺伝子の転写を促進させて表現型を確認する手もあるだろう。

2.RNAi により遺伝子の発現を抑制する。
 ノックアウトさせてしまうと致死になる遺伝子は、ノックダウンして一時的に遺伝子の機能を抑制することができるかもしれない。CRISPRi と比べると dCas9 の発現等が不要で、miRNA/siRNA の添加のみで遂行可能であるため、現在最も普遍的に行われている実験の1つでもある。

3.ゲノム編集により、元々のプロモーターを低活性プロモーターに置き換える。
 RNAi は常に起き続けるわけではない。miRNA/siRNA が経時的に分解されていくため、遺伝子Aに由来する現象を観測するタイムスケールが限定されてしまう。プロモーター自体の活性を低めることができれば、遺伝子Aの機能を常に一定程度抑制することが可能である。

4.(遺伝子Aがタンパク質A'として発現する場合、)A'の阻害剤を添加する。
 実際に遺伝子Aが機能を発揮するのはタンパク質の状態である。DNA や RNA レベルで遺伝子Aに介入する場合、実際に遺伝子Aの機能が変化するまでには数時間かかることが想定される。タンパク質A'が関与する現象のタイムスケールが短いと仮定すると、遺伝子Aの機能を捉えられない可能性が高い。
 この場合、タンパク質A'に対する阻害剤を使うのが有効だ。阻害剤-タンパク質A'複合体の安定性が気になる場合は、阻害剤を PROTAC 化して、タンパク質A'そのものを分解させてしまうのも手だろう。

5.(遺伝子Aがタンパク質A'として発現するが、A'の阻害剤が知られていない場合、)A'にデグロンを付加する。
 
タンパク質A'の情報が乏しい場合、阻害剤が使えないことがある。その時は、ゲノム編集により外来のデグロン配列を遺伝子Aに付加し、温度・光・低分子化合物の刺激によってユビキチン化を誘導し、プロテアソームによりタンパク質A'そのものを分解させることができる。


【要点】
 セントラルドグマ(DNA・RNA・タンパク質)のどの状態で遺伝子の発現を抑制するか、が肝である。実際には操作の簡便性等から方法論が選ばれるだろうが、その操作が生命現象のどの段階に介入し、どのくらいのタイムスケールで現象を変えうるか、に着目するのがいいだろう。

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