見出し画像

2024年下半期のベスト本 -興味の発散-

 2024年下半期は45冊の本を読んだ。上半期と比べて、論文等を用いた自学や、イベント事への参画が多く、読書に想定上の時間を割くことはできなかったが、その分多様な書籍に触れることができた。今回もジャンルごとに良かった本を紹介していきたい。


エッセイ

『じたばたするもの』(大阿久 佳乃)

 書評は人の感覚が色濃く反映される。以下の過去記事でもこの本に触れているので、よければご参照いただきたい。


『水中の哲学者たち』(永井 玲衣)

 近年、哲学に関する解説本が増えてきたように思う。専門用語の難解さを除しても、命題自体が難解な学問だが、本書はかなり大衆向けで、哲学はそもそも身近であるべきだということを説いてくれる。その中でも「世界、問題集かよ」という項目がお気に入りだ。書籍はあくまで教科書や例題集でしかない。この現実を生きるための問題集はあちらこちらに転がっている。それに真っ向から向き合うことが哲学の開始とも言える。



評論

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(三宅 香帆)

 2024年を代表する著作であり、私の過去記事でも触れているので、ここで詳細は割愛したい。


小説

『四月になれば彼女は』(川村 元気)

 表題はサイモン&ガーファンクルの『April come she will』がモチーフとなっているが、本当にサイモン&ガーファンクルが流れてきそうな雰囲気が文体にある。「私たちは愛することをさぼった」「わたしは愛したときに、はじめて愛された」。この言葉が心に深く残る。エーリッヒ・フロムの『愛するということ』を読んだことを思い出す。


『黄色い家』(川上 未映子)

 私が敬愛する作家の一人で、長編としては『夏物語』以来の約4年ぶりとなる小説。格差や貧困の真っ只中で、自らの全身全霊を振り絞って金を稼ぐことに奔走する若者たちの物語。文章から生のエネルギーを感じさせるほどの筆致で相変わらず素晴らしいと感じた。川上 未映子 氏の作品を読んで毎度感じるのは、自分がこれまで見てきた世界がいかに狭いものであるか、ということ。自分が関与したいと思う世界でしか私達は生きられない。ならばせめて、作品として他の世界を認識し、謙虚な気持ちを持つことは大事ではないだろうか。


専門書

『分子生物学: ゲノミクスとプロテオミクス』(田村 隆明)

 DNA複製・転写・翻訳の分子メカニズムを徹底的に解説した書籍。転写される時、DNAらせんを進むことによるトポロジカルなストレスが生まれる、など通常の教科書を紐解いていては知り得なかった内容が充実している。また、それらの発見がどのようにしてなされたかを実験的に解説している点も、研究の観点からは参考になる。例えば、転写物が伸長していく様子は電顕画像によって初めて検証されたし、核酸が湾曲している様は環状化アッセイによって検証される。私が専門にしている合成生物学でも、問題解決に当たる時、最終的にはセントラルドグマへの深い理解が求められる場合が多かったように思うから、これは長らく愛読書になるだろう。


『システム生物学入門』(畠山 哲央・姫岡 優介)

 学生の頃からの私の興味として、分子生物学を数学の枠組みで表現することができないか、という事がある。大学生の頃に『マレー数理生物学入門』の輪講などもやってみたのだが、対象となる現象が生態学や化学反応に偏っており、分子生物学と数学の接点が掴めず、悶々とした思い出がある。
 本書では、生体分子同士の結合・解離がシグモイド関数として描ける理由を、統計力学の観点から紐解いたり、生物内の代謝をうまくモデル化することによって生物の増殖性を予測したりなど、観察に重きを置かれてきた分子生物学へ理論をふんだんに取り入れており、目からウロコの連続である。特に統計力学の導入は、一般的な理学書と比べてもとっつきやすくオススメである。


実用書

『コンピュータはなぜ動くのか』(矢沢 久雄)

 実務で Python, MATLAB, SQL 等様々な言語でプログラムを書くことが増えた時に、「そもそもコンピュータの中ではどのように演算が行われているのか?」という素朴な疑問が日に日に大きくなっていた。それに専門的に答えてくれたのが本書籍である。周知の通り、コンピュータはゼロイチ(ON-OFF)の2値演算しかできない。それらを複合的に組み合わせて、ブラウザを表示させたり、パワーポイントでスライドを作ることができたりする。
 私が触れているプログラミング言語は大抵高水準言語であり、自然言語ほどは馴染みが無いものの、比較的馴染みやすい言語である。一方で機械語やアセンブラといった言語は、むしろコンピュータが理解できる言語。それをうまく繋ぐために、世界中の人々が使いやすい言語を日夜開発してくれているのだ。本書ではアセンブラを実際に触ってみる項もあり、人間にとっては単純な操作を機械に指示することがどれだけ難しいか、を身を持って体験できる。


終わりに

 こうして見ると、冊数を増やす代わりに、読む書籍の種類を広げてこれた半年間だったように振り返る。ここには記載していないが、詩にも挑戦した。題材は向坂 くじら氏の『とても小さな理解のための』であったが、これが結構難しく、あまり理解できずに終わってしまった。まだまだ自分のモノにできていないジャンルがありそうだという高揚感とともに、2025年も書籍の開拓を進めていきたい。


いいなと思ったら応援しよう!