この秋から接種が開始される予定のレプリコン(自己増殖型)ワクチンについて、シェディングまたは伝播・排出・曝露などとも呼ばれる事象への懸念が指摘されています。この事象については懐疑的な人も多いようですが、生ワクチンの添付文書にも記載されている事象であり、遺伝子治療ではリスクとして挙げられています。他のワクチンや遺伝子治療で起こり得るなら、mRNAワクチンでは絶対に起きないとは言えないでしょう。それなのに、なぜ承認審査ではそれが起きていないことを確かめようとしないのでしょうか。
厚労大臣の会見
厚労大臣は2024年7月26日の会見で、記者からの質問に下記のように答えていました。
武見大臣会見概要
(令和6年7月26日(金)11:16~11:32 省内会見室)
大臣は「知見は現時点ではありません」と言っていますが、「臨床試験を行ったか」という質問の回答にはなっていません。行っていないなら、なぜ「行っていない」と答えないのでしょうか。このような答え方をするということは、行っているけれど承認審査のデータとしては提出していない可能性があるように思えます。
記者が挙げた資料は、下記のことだと思います。
平成 29 年度 厚生労働行政推進調査事業 (医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究事業)
「異種抗原を発現する組換え生ワクチンの開発における品質/安全性評価のありかたに関する研究」総合報告書
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「伝播の可能性」について書かれていますが、厚労大臣は「レプリコンワクチンは増殖型組換えウイルスワクチンにはあたらない」と言っています。
もし今回のレプリコンがこれにはあたらないとしても、「伝播」という事象が起きる可能性があるワクチンの開発が進められているということになります。
お尋ねの「シェディング」と呼ばれる現象
前述の会見で、7月5日の会見での発言が指摘されていたので確認しました。
武見大臣会見概要 令和6年7月5日
ここでも「臨床試験を行っているのか」という質問に対して、「行っていない」とは答えず、お尋ねの「シェディング」と呼ばれる現象というものが、科学的知見として現在存在するということについて全く承知をしておりません、と答えています。
「お尋ねの」が付いているところが逃げ道のように思いますが、「シェディング」と呼ばれる事象が存在することについて、厚労大臣が知らないはずがありません。
例えば、厚労省が各都道府県衛生主管部(局)薬務主幹課に宛てた事務連絡に、ICH(日米EU医薬品規制調和国際会議)の見解が書かれたものがあります。
近年の遺伝子治療に関する研究開発の発展等を踏まえてまとめられた「ウイルスとベクターの排出に関する基本的な考え方」について(平成27年6月23日) には、「排出(shedding)とはウイルス/ベクターが患者の分泌物や排泄物を介して拡散することと定義する」と書かれています。
ICH 見解「ウイルスとベクターの排出に関する基本的な考え方」について 事務連絡(平 成 27 年 6 月 23 日)
また、下記は首相官邸のサイトで公開されている資料ですが、遺伝子治療の課題として「遺伝子治療を受けた患者からのウイルスやベクターの排出(shedding)→家族や医療従事者への伝播リスク」が挙げられています。
資料4-1: 内田参考人説明資料
ですから、「科学的知見として現在存在するということについて全く承知をしておりません」というのはおかしいです。
遺伝子治療とmRNAワクチンの境目
厚労大臣の答えについて、記者の質問を「レプリコンワクチンに関するシェディングについて」と捉えて、それについては「承知していない」という意味だったと解釈しようとしても無理があります。
なぜなら、mRNAワクチンが遺伝子治療にあたるのかという議論が以前から行われており、その中で自己増殖型についても話されているからです。例えば、下記の議事録にもあります。
第 三 回 再 生 医 療 等 安 全 性 確 保 法 の 見 直 し に 係 る ワ ー キ ン グ グ ル ー プ議事録 ( 令 和 3 年 6 月 2 日)
資料1-2 「in vivo 遺伝子治療の規制構築に向けた研究」の概要と論点整理
議事録10ページ
「in vivo 遺伝子治療」には、「排出に伴う第三者への伝播」のリスクが指摘されていると説明しています。
12ページ
ここでは、mRNAワクチンは「遺伝子治療とは余り考えにくいだろう」と言っていますが、自己増殖型の mRNAを使う場合にはまた違ってくるようなことも言っています。
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この質問は私がずっと思っていたことなので、ぜひ答えが知りたいと思いました。
これでは、質問の答えになっていないと思います。言葉の定義ではなく、メカニズムはどうかと質問しているのです。
欧米での見解について、前回の記事で取り上げたPMDA専門部会の議事録には、下記のように書かれていました。
第2回標的特異性を有するin vivo遺伝子治療用製品のベクターに関する評価の考え方専門部会議事録 2023年8月10日
資料2 位髙委員 講演資料
この話からも、「感染防御の場合には遺伝子治療にならない」というのは、目的による定義であってメカニズムによるものではないということではないでしょうか。開発を加速させたいために、遺伝子治療の枠から外すようにロビー活動が行われていたのだとしたら、感染予防のワクチンだから伝播のリスクがないとは言えないと思います。
第88回厚生科学審議会感染症部会
厚労省の厚生科学審議会でも、「再生医療等安全性確保法」の改正に向けて議論が進められていました。「再生医療等安全性確保法」は、再生医療等の迅速かつ安全な提供等を図るため、再生医療等を提供しようとする者が講ずべき措置を明らかにするとともに、特定細胞加工物の製造の許可等の制度等を定めたもの、とのことです。
8月8日に開催された「第88回厚生科学審議会感染症部会」の資料には、「 in vivo 遺伝子治療のうち、疾病の予防を目的とするものについても、細胞医療(ex vivo 遺伝子治療を含む)と同様に再生医療等安全性確保法の対象となるという点で概ね意見が一致した」と書かれています。
「in vivo遺伝子治療等や遺伝子治療等の関連技術には、人の疾病の予防を目的とする、核酸等を用いたワクチン(mRNAワクチンなど)も含まれる」ということになったようです。そうなると、mRNAワクチンも感染症の伝播やがん化等のリスクがあるということになると思います。
ところが赤字で、「日本未承認であるが外国で承認されている感染症の予防(感染・発症 予防や重症化予防等を含む)を目的としたワクチンについては、公衆衛生施策上必要なものは再生医療等安全性確保法上、個別に除くという点で概ね意見が一致した」とあります。
アメリカなどで承認されたワクチンは、対象外となるということのようです。リスクの可能性は同じと認めたのに、そのリスクについては何も対応しなくてもよいということなのでしょうか。
そもそも、これまでのワクチンに関しても、伝播の問題はありました。それなのに、承認審査の際に伝播に関するデータを提出しないのはなぜなのでしょうか。
例えば下記の記事では、おたふくかぜ生ワクチン「第一三共」の添付文書に書かれていた「ワクチン被接種者から非接種者へのムンプスワクチンウイルスの水平伝播が報告されている」件について取り上げています。ワクチンウイルスが伝播して非接種者も予防できるという話ではなく、伝播によって接種していない人が発症し、重症化した人もいたという事例です。
おたふくかぜ生ワクチンに伝播の可能性があることを、接種する前に説明している医師はいるのでしょうか。
論文の筆者らは、報告数は少ないが稀なのではなく、不顕性感染(感染していても、感染症状を発症していない状態)を起こすことが多いため、ほとんど認識されていないのだろうと考えているようです。そして、ワクチン接種者の家庭内接触者をモニタリングすることの重要性を強調しています。添付文書に書いてあるぐらいなのだから、日本でももっと周知するべきではないのでしょうか。
下記の記事では天然痘ワクチンについて、「予防接種を受けた人からのワクシニアウイルス感染の可能性がある」ことについて取り上げました。
すでに伝播の報告がある生ワクチン、遺伝子治療と同じようなメカニズムで作られたワクチンなど、周囲の人に悪影響を与える可能性があるものについて、なぜ国は国民にそのリスクについて説明しないのでしょうか。もしワクチン接種による伝播がないのであれば、堂々と公表すればよいのです。「臨床試験を行ったが、伝播はなかった」とデータを公表すれば、懸念は払拭できます。なぜそうしないのでしょうか。
臨床試験で検証した結果、もし伝播があったことが証明されてしまうと、ワクチンというものの致命的な欠点が明らかになってしまうから、「臨床試験を行っている」かどうかには答えられないのではないでしょうか。