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「レプリコンワクチン接種者入店お断り」は差別なのか?

ホットペッパーなどで、今秋から供給が予定されているレプリコンワクチン(コスタイベ筋注用)について「接種者の入店お断り」を表明しているお店が増えているという情報をXで見ました。「ホットペッパー レプリコン」で検索してみると、確かにお断りと書かれているお店が多数あります。これについて、「レプリコン接種者を入店拒否するのは、非接種者を入店拒否したのと同じ差別だ」などと言う人もます。入店お断りは、差別なのでしょうか。


遺伝子治療に含まれるのかという議論

少し前の記事で、mRNAワクチンが遺伝子治療にあたるのかという議論が以前から行われており、その中で自己増殖型(レプリコン)についても話されていることを掘り起こしました。

遺伝子治療は、家族や医療従事者への伝播リスクがあることが課題となっています。以下、関連資料を再掲しつつ、新たな資料をプラスしました。


資料4-1: 内田参考人説明資料


https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/genome/advisory_board/dai4/siryou4-1.pdf


https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/genome/advisory_board/dai4/siryou4-1.pdf

そして、2024年8月8日に開催された「第88回厚生科学審議会感染症部会」の資料には、「 in vivo 遺伝子治療のうち、疾病の予防を目的とするものについても、細胞医療(ex vivo 遺伝子治療を含む)と同様に再生医療等安全性確保法の対象となるという点で概ね意見が一致した」と書かれています。


https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001285609.pdf

「in vivo遺伝子治療等や遺伝子治療等の関連技術には、人の疾病の予防を目的とする、核酸等を用いたワクチン(mRNAワクチンなど)も含まれる」ということになったようです。そうなると、mRNAワクチンも伝播やがん化等のリスクがあるということになると思います。

この記事を書いた時点ではまだ議事録が公開されていなかったのですが、先日公開されたとコメントでお知らせいただいたのでこの部分について掘り起こしてみました。

【資料1】改正再生医療等安全性確保法におけるワクチンの扱いについて

○杉原再生医療等研究推進室長
資料1を御覧ください。
 こちらは、6月に新たに改正法案が成立いたしました、再生医療等安全性確保法におけるワクチンの取扱いについてということで、こちらは、公衆衛生の観点においても、今回の改正が一定の影響を与え得るということで、今後の方針について御相談させていただきたいということで、本日、御相談させていただく次第でございます。
(中略)
どういったワクチンがこういったものの中で関係し得るかといいますと、例えばメッセンジャーRNAワクチンとかウイルスベクターワクチンもそうなのですが、こういったものに関しては、いわゆる体内から投与して、細胞内に入って、たんぱくと合成するような形のものに関しては、対象となり得るということですが、こちらは、これまでも取りまとめの議論の中でも、例えば一般的に使われているような、海外で承認されていて、国内では未承認のトラベラーズワクチンとか、危機管理の目的で使用されるワクチンなどでは遺伝子組換え等が行われたワクチン等もございますが、こういったものは、今回、規制に入ってしまうと、必要なときにすぐに使うことが難しくなってしまうこともありますので、公衆衛生上、必要なものに関しては、再生医療等安全性確保法から個別に除くということで意見が一致しておりまして、このような取扱いをしたいと考えているところでございます。
(中略)
 具体的には、まず、どのようなワクチンを対象とするかということですが、これは感染症の蔓延の防止の必要性であったり、そういったワクチンの有効性・安全性等の専門的見地からの検証が必要になるということで、選定に当たっては、まず、感染症部会において公衆衛生上の観点から御議論いただきまして、その上で、再生医療等評価部会において検証を行って、その結果を踏まえて除外の検討を行う形にしてはどうかと考えております。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_42942.html

「公衆衛生上必要なもの」は除外するとありますが、ワクチンのように多くの人が接種するものならなおさら、伝播のリスクについてきちんと検証しておかなければ、取り返しのつかないことになるのではないでしょうか。

mRNAワクチンなども遺伝子治療等に含めるとしたなら、同様のリスクがあることになると思うのですが、それを除外してしまったら、何のために含めたのかわかりません。

○谷口委員 ありがとうございます。
 基本的には、既に承認されているものは対象外であるし、管理的なものも対象外ということで、あと、海外できちんと評価されて、承認されているものは、一定の国において評価されたものは日本でも対象外と理解しました。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_42942.html

「基本的には、既に承認されているものは対象外である」と書かれているので、ファイザー社やモデルナ社のmRNAワクチンやMeiji Seikaファルマ社のレプリコンワクチン(コスタイベ筋注用)などは対象外ということなのでしょう。


遺伝子治療の場合

mRNAワクチンが遺伝子治療に含まれるとしたら、伝播に関してどのような対策が必要なのでしょうか。

以下は、「遺伝子治療用製品等及び感染症の予防を目的とする遺伝子組換え生ワクチンの治験実施までの留意事項」について書かれた資料です。2020年の資料であり、レプリコンワクチンのことが書かれているわけではありませんが、参考になることが書かれてると思うので一部引用します。

遺伝子治療用製品等及び感染症の予防を目的とする遺伝子組換え生ワクチンの治験実施までの留意事項(第2版) 2020年12月
日本製薬工業協会 バイオ医薬品委員会
技術実務委員会 第三検討グループ

3.3.2. ウイルスとベクターの排出に関する基本的な考え方
ウイルス/ベクターの排出(shedding)とは、遺伝子治療用ベクターや腫瘍溶解性ウイルスが患者の分泌物や排泄物を介して拡散することである。
(中略)
●臨床での排出試験データの解釈
・「排出物」の同定及び特性解析:qPCR 等と感染性試験と組み合わせて用いる。qPCRで検出された排出物の量が感染性試験の検出限界以下の場合、感染性試験による排出物の更なる分析を実施しないことも可能。qPCR 等のみを実施する場合、「排出物」は感染性があると見なすべき。
・ 野生型株の自然感染の経路:例えばウイルス/ベクターが唾液から排出されたり鼻咽頭スワブで検出された場合、他の経路(尿等)からの排出と比較して、エアロゾルを介した伝播の可能性がより高いと考えられる。
・ 排出される量及び期間:増殖性ウイルス/ベクターは患者体内に長期間存続し、量も増える可能性があり、結果的に伝播の可能性も高まる。
・遺伝子組換えによる増殖性や弱毒化の程度、発現される導入遺伝子産物の安全性プロファイル、導入遺伝子がウイルス/ベクターの表現型の特徴に及ぼす影響
● 第三者への伝播
・ 排出が観察されるときは、ウイルス/ベクターの被投与者と濃厚に接触した人々(家族や医療従事者など)への伝播の有無を評価する。
・ 患者及びその家族に対して、第三者への曝露を最小限にするための方法を指導することが適切であろう。

https://www.jpma.or.jp/information/bio/deliverables/lofurc000000d1jk-att/2021_notice_02.pdf

第三者への伝播について、「排出が観察されるときは、ウイルス/ベクターの被投与者と濃厚に接触した人々(家族や医療従事者など)への伝播の有無を評価する」とあります。臨床試験でこれを行っていない(あるいは行ったのにデータを公表していない)ことが、レプリコンワクチンへの不安の大きな要因だと思います。

伝播の有無をきちんと評価していたら、接種者やその家族に対して、第三者への曝露を最小限にするための方法を指導しなければならないはずです。これを評価せずに承認されたから、人々は不安になり、自分の身を守るために「入店お断り」をせざるを得ないのだと思います。承認審査の報告からは伝播のリスクがあるかはわかりませんが、評価がでていないので「ない」と断言もできないはずです。

別の例ですが、抗がん剤の治療による曝露について、患者家族への指導などが十分ではないということが明らかになりました。

以下、読売新聞オンラインから一部引用です。

抗がん剤の小児がん患者家族への曝露リスク「医療従事者と比べると対策不十分」…ベッドの柵などに成分
2024/06/28 09:15 読売新聞オンライン

 抗がん剤に関する九州大や第一薬科大などのチームの調査結果からは、付き添い家族が小児特有の事情によって、抗がん剤の 曝露(ばくろ) リスクにさらされている実態が浮かび上がった。子どものつらい闘病生活を支えつつ、家族のリスクをいかに減らしていくか。両立に向けた実効性のある対策が急務となっており、専門家は議論を加速させる。
(中略)
厚生労働省は2014年、日本看護協会などに対策を徹底するよう求める通達を発出。関連学会は「曝露を限りなくゼロに近づける」ことを目的としたガイドライン(指針)を策定した。

 各病院は医療従事者が抗がん剤を扱ったり、点滴で投与された患者に接したりする際、手袋やガウン、マスクを使うなどの対策を取っている。このため、チームの調査では医療従事者からは抗がん剤の成分が検出されなかったとみられる。
一方、付き添い家族らを念頭に置いた対策は定められておらず、詳しい実態も分かっていなかった。

https://www.yomiuri.co.jp/local/kyushu/news/20240628-OYTNT50031/

記事には、医療従事者には、抗がん剤を扱ったり、点滴で投与された患者に接したりする際、手袋やガウン、マスクを使うなどの対策を取るように指導している一方で、付き添い家族らを念頭に置いた対策は定められておらず、詳しい実態も分かっていなかったと書かれています。調査結果は、医療従事者からは抗がん剤の成分が検出されなかったとする一方、家族は衣服や寝具などを素手で触って皮膚から吸収したり、気化した成分を吸い込んだりして体内に取り込んだとみています。

医療従事者には指導しているのに、なぜ家族には対策を説明しなかったのでしょうか。

レプリコンワクチンに関しても、何も対策をしなければ、多くの人がこのような被害にあってしまうかもしれないのです。他国ではまだ承認されていない自己増殖型の新しいワクチンなので、接種者から何が排出されるかもわからないですし、不安になります。そのような中で自分の身を守るために「入店お断り」をすることは、差別になるのでしょうか。これが差別とされるなら、国や製薬会社に責任があると思います。レプリコンワクチンに関してきちんと排出や伝播の有無を評価をして、入店お断りをする必要がないことを明らかにしなければ、国民は安心できないでしょう。

もし臨床試験などで伝播のリスクがあるとわかっているなら、このレプリコンワクチンの開発を進めたい人たちも接種者からの伝播を受ける可能性があると思います。それでも約427万回分を供給する予定ということは、伝播から逃れられる方法があるのでしょうか。それとも、臨床試験などで伝播のリスクはないとわかったのでしょうか。もしリスクがないなら公表すればよいと思うのですが、厚労大臣は臨床試験を行ったかという質問には答えていません(下記参照)。この点に関しても、いろいろと疑問が残ります。