「ランチ酒おかわり日和」感想
近頃、原田ひ香さんの小説にハマっていて、少しづつ読み進めています。
特に、先日読んだ「三千円の使い方」といい、「ランチ酒」といい、タイトルから絶妙で、お金と食べることが大好きな私の心を鷲掴みです。
私の中では、「ランチ」と「お酒」という、庶民には叶わないような言葉の組み合わせが最高。
事情があって、今回はシリーズ2冊目から先に読んでいますが、「おかわり日和」なんて、これまた素敵なサブタイトルが付いています。
主人公の犬森祥子は「見守り屋」という、依頼人の家に赴いて一晩寝ずの番をする、という特殊な仕事に就いており、東京都内をホームグラウンドに動く彼女は、仕事が終わる昼近くに、お酒を軽くたしなめながら、ランチを楽しむことを日課にしています。
会社勤めも大変だけど、癖のある個人とずっと向き合っていたら、そりゃ夜勤明けに一杯やって締めたくもなります。
丼ものとかラーメン、ハンバーグやサンドウィッチ、そしてお寿司など、登場する料理がすごく身近で、値段もワンコイン+αという手頃で味の想像がつくからこそ、読んでいてすごくわくわくするし、その味が口に広がっていく感覚も覚えるものです。
場所によっては、困るほどお店の種類が選り取り見取りだったりとか、入店し注文を伝える短い時間内で、料理にぴったりなお酒を見繕い、まさにそれがドンピシャだった瞬間とか、女性一人で酒をたしなんでいてもそんなに浮くこともない都会の適度な無関心さとか、地方住の私から見れば、憧れるところが満載で、雰囲気も楽しめます。
運ばれてきたこだわりの料理を、味だけではなく、箸で具材をそっと軽く上げ下げして、見た目とか器の中身まで楽しんでいるところも面白いところです。
馴染みのある和風の味を口にした時、醤油、みりん、酒の配合が1:1:1だろうか、なんて、私は考えたこともないな。
個人のお店でもフランチャイズのお店でも、食べる人に喜びを与えるために、見えない工夫とか苦労とかを重ねて一品を完成させるはずで、私なんか振返ってみると、口にするものを、美味しいとかそうではないとか、払った分だけの価値があるのかとか、今まで損得勘定丸出しの味気ない判断ばかり。
料理下手で、尚且つ食べることが大好きだから、手の届く値段の外食には長年随分助けられている癖に、心の中で大口をたたいていた自分、思いがけないところで反省を促してしまいました。
秋葉原の章で、主人公が赤ワインと共に注文していた角煮丼、すごく美味しそうだったな。
モデルになっているお店があるのだろうかと、ネットで検索してみたら、本当に秋葉原に店舗を構えており、丼全体に堂々と鎮座する、フライになった角煮を、トロトロ卵と一緒に頂けるらしいです。
写真を見る限り結構なボリュームだけど、年々自分の食が細くなっていくのを自覚しているから、まだ食べれるうちに是非このお店を訪れたいな。
何ならそれだけを目当てに、新幹線に乗ってお店に行きたくなる(自分でこしらえるという選択肢は、私には皆無)。
その日の一食を、これで終わらせようとすれば、何とかお腹に収まりそう。
第六波の真っ最中で、地方住が何をのんきなことをほざいている、なんて思う方もいるのでしょうが、そんなささやかなことを願いながら生きている人もいるわけですよ。
生きるということは、食べていく、ということ。
文字通り、生命を維持するためでもあり、誰かと一緒に取ることで、繋がりを作ったりすることもあるし、一筋縄ではいかない人生だからこそ、誰にも心配や迷惑を掛けず一人で元気になりたい、という時に美味しい食事は随分手助になるものです。
そんな喜びを分けてくれるために、それぞれのお店で待っている人たちに少しでも早くお会いできるよう、いつも通りの日常が再び戻ってきてくれること、私はひっそりと願っているのです。