小説学校犬タロー物語②、雌犬花子との出会い、そして女子高校へ
花子との出会い
果樹園を通り抜けると川幅約5メートルの中級河川にぶつかりました。ここからはタローの日常の行動範囲を超えた未知の領域です。
少し迷った後に。タローは川沿いの農道を下流に向かって歩き続けました。
これが華麗な転身を遂げ、稀有な生涯を送ることになる道への第一歩だったのです。
やがて交通量が多い県道に到達したのです。川を挟んで二つの学校がありました。小学校で遊び暮らして育ったタローにとって学校は馴染み深いところです。
県道を渡りまっすぐ行き,右手の学校の校地内に数歩入ってみたところ、男子生徒の蛮声が聞こえてきたのです。怖くなり引き返しました。後で知ったのですが、ここは工業高等専門学校だったのです。
次に橋を渡り、左手の学校の方へ行ってみました。外から様子を探っていると、女の子のかん高い声が聞こえてきました。タローを安心させる声でした。小学生と共通点がある声です。この声に魅かれて、校地内に入ろうとしていた時、一頭の雌犬が近づいてきたのです。
毛の色、大きさもタローと同じくらいの雌犬です。2頭は互いに相手を嗅ぎあって、初対面の挨拶をしました。どうやらお互いに気に入ったようです。この雌犬が後にタローの妻となる花子なのです。
花子は慣れた足取りで,トコトコと校舎の方へ歩いていきます。少し進んだところで花子は足を止めて後ろを振り返ってタローを見たのです。
花子が「私の後についておいでに」と言ったようにタローは思ったのです。
そこでタローは花子の後について行きました。
タローと花子、女子高校で大歓迎を受ける
この学校は女子高校でした。学校は昼休みの時間でした。バラ園に面した日当たりのよいテラスで女生徒たちが、楽し気におしゃべりをしながら弁当を食べていたのです。
そこへ即席カップルの花子とタローが寄り添って現れたのです。いつもは花子が昼休み時に弁当のおかずのおすそ分けをもらいに一匹で来るのですが、今日はカップルで現れたのです。
青春の気に満ち溢れたハイティーンの少女たちが大歓迎しないはずはありません。「見て!見て!花子が恋人を連れてきたよ!」と一人の少女が大声で叫んだのです。
大歓声が沸き起こり、花子とタローの前にソーセージ、卵焼き等が並べられたのです。
まだ幼な顔が残るタローに対して、「あんた、名前はなんというの?」という質問が集中したのです。
少女たちの一人が「花子の恋人だから名前はタローにしよう!」と叫ぶと、みんな同意したのです。
こうして工場の飼い犬だったころの「虎次郎」という名前は「タロー」に変えられたのです。
ここからタローの波乱に富んだ生活が幕開けしたのです。
この大さわぎの中で2頭の即席カップルの間のきずなが深まっていったのです。花子は2匹で訪問する方が大歓迎されると考え、タローは小学生と遊ぶのは楽しかったが少女たちにチヤホヤされ、弁当のおかずを沢山もらえることに、よりいっそうの魅力を感じていたのです。
昼休み終了のチャイムが鳴ると、生徒たちは一斉に教室に入り、花子とタローはバラ園の中に取り残されました。バラの花の甘い香りの中で花子とタローは改めて互いに見つめ合い、好みのタイプであることを確信したのです。
特に、2歳年上の花子について行くことによって、鎖につながれた境遇から脱出できて、新たな生活が展開しそうだとタローが感じたとしても不思議ではありません。
この後、二頭は校庭の方角へ向かって走っていき、校庭の隅の方の草原になっている所でじゃれあって遊び、疲れると柳の大木のもとで休息したのです。
さらには花子の案内に従って校地内を一巡りしたのです。
校地内を探検し,また校庭に戻って遊んでいるうちに夕方になりました。お腹もすいてきました。
すっかり仲良しになった二匹です。花子が飼い主の家に向かうとタローも当然のように,その後について行ったのです。
花子の家は学校とは反対側の県道沿いにあったのです。
花子の夕食の半分をもらって食べました。
花子の飼い主の川田家の奥さんが見知らぬ犬が庭に入り込んでいるのを見てタローを追い出したのです。
タローは川田家の裏に広がっている畑に向かって行きました。畑の中に作業小屋がりました。
中に入ると農作業用の道具や藁の山があったのです。そこに野良猫が眠っていました。
タローも藁の山の上で眠りについたのです。
朝には悲痛な気持ちで脱走してきたのですが、夜には安心して眠りにつくことができたタローです。花子と出会い、女子高校生に大歓迎され、家出しても食料問題は何とかなりそうです。
眠る場所も見つけました。
さて、この後、タローの家出は成功するのでしょうか?食料と安全確保のためには、まだまだ課題が残っています。