小説学校犬タロー物語③女子高校と花子の家の居候犬になる
第3章女子高校と川田家(花子の家)の居候犬となったタローの縄張り経営
タロー自由犬としての地位を確立
タローは幸運と自己の才能、努力によって自由犬としての地位を獲得しました。
まるで、あらかじめ定められた運命の糸に操られて、花子との出会いによって安住の地を見つけたように見えるタローです。タローが幸運に恵まれていたことは確かです。
もしも、川の上流に向かって行き、安住の地を見いだせなかったなら、または工業高等専門学校に入り、乱暴な生徒に手痛い仕打ちを受けていたなら、飼い主の所に戻って、鎖につながれ、工場の番犬として、安全ではあるが自由のない平凡な生涯を送ったことでしょう。
確かにこれまでのところは運が良かったといえるでしょう。しかし、幸運で得たものを維持し、発展させるためには並み並みならぬ当事者の努力が必要です。
普通の飼い犬はご主人に尻尾さえ振っていれば、安全も食料も確保できます。
自由犬になったタローに、生涯にわたっての幸運が続くはずがありません。安全と食料は自力で確保しなければなりません。
この後、タローは持って生まれた能力と幼児犬の時に小学生と毎日遊んで身につけた後天的能力を生かして自らの力で運命を切り開いていったのです。自由犬として暮らすために必要な環境を自ら作り出して行ったのです。
花子の家の居候犬としての地位を獲得
川田家の奥さんは最初は見知らぬ犬が庭に入ってきているの見てびっくりしてタローを追い出しました。その後、二匹がいつも連れだって女子高校に向って行くのを何回も見たのです。もともと犬好きの奥さんのことです、タローが川田家に出入りするの許しただけでなく、花子のエサ入れにタローの分も加えてくれたのです。
花子の家に入り込んで休んでいるタローを見ても、微笑んで許してくれました。
花子の飼い主の川田家の奥さんの黙認を得て花子の家に出入りし、二匹は仲良く散歩しているのを見て、近所の人たちはタローを川田家の飼い犬だと思っていました。これにより野良犬として保健所に連絡される心配はなくなったのです。安全も確保したのです。
タローと花子が校庭の隅で休んでいるところを見て、川田家の奥さんが花子に帰ってくるよう呼んでも二匹はぴったりと寄り添ったままでした.相思相愛の恋人たちを引き離すことは誰にもできなかったのです。
川田家の援助を得てタロー用の餌を提供してもらい、昼時に女子高校へ行って弁当のおかずを分けてもらいました。タローは童顔です。童顔でぬれたような目でじっと見つめられると支援せずにはいられなくなってしまいます。
これだけでは不十分です。花子の川田家の援助を永遠に受けることができる保障はありません。
タローが獲得した、その他の食料源
女子高校の方も土日曜および長期休みには弁当のおかずのおすそ分けはもらえません。他に、できるだけ多くの支援者、食料提供者を確保しておく必要があります。
花子の家と女子高校の次に三番目の食料提供者をタローは確保したのです。三番目の支援者とは女子高校近くの食堂の主人です。
昼頃、学校に出前にくる主人の後について行き、たびたびその食堂に訪問し、食べ物をねだったのです。夜、食堂を閉店する少し前に行くと残り物を沢山もらえることを知ったのです。
実はこの食堂の主人とは子犬の頃からの顔なじみなのでした。タローの最初の飼い主であった建設機械修理工場にも出前に来ていたのです。食堂の名は光栄食堂です。この食堂の主人は愛想の言葉一つもない無口な人で、いつも忙しそうに校地内を小走りしていたのです。この人をタローは抜け目なく支援者として獲得したのです。花子の死によって川田家との縁が切れ、女子高校が休日の時は唯一の食糧源となり大助かりしたのです。
放課後、女生徒たちは学校のすぐ前のよろず屋店でパンや菓子を買うのですが、そこでもおすそ分けをねだったのです。
學校から少し離れた肉屋では揚げたてのコロッケも売っているのです。ここでコロッケを買って歩きながら食べている生徒にも、おすそ分けをねだったのです。
花子の家、女子高を起点とした、約半径500メートル以内の中に、これらの店や食堂があったのです。この500メートル以内の所が、いわばタローの縄張りであったのです。この時点でタローは飼い主に頼らず自由犬として生きて行くことができる地位をほぼ確立したのです。
家出は見事に成功したのです。工場に戻って、鎖につながれ番犬の仕事をする必要はなくなったのです。