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道草(6)謄写版印刷(ガリ版)に挑戦 その2

 当社の創立60周年誌が完成し、そのお届けに際しての挨拶文をガリ版(謄写版印刷)で印刷することになりました。創業当時を偲ぶという趣向です。ただ、機材がなくいろいろ聞いて、たどり着いたのが滋賀県東近江市の「ガリ版伝承館」内で活動している「新ガリ版ネットワーク」でした。このグループはガリ版講習会や機材レンタルを行っていてガリ版の普及活動をしています。というわけで早速1か月間のレンタルを申し込みました。

 9月初旬にガリ版道具一式が大きな段ボール箱で届きました。懐かしい道具類が出てきました。ヤスリの枠は木製ではなくプラスチックに変わり、インキも缶ではなくチューブ式になっていましたが、その他の鉄筆、ロウ原紙、印刷機などは昔のままでした。

送られてきたガリ版セット
ロウ原紙
ヤスリと鉄筆

 ということで早速ガリ切り(鉄のヤスリの上にのせたロウ原紙に鉄筆でガリガリと筆耕する)を始めました。5mm方眼(5mmのマス目がロウ原紙に印刷されています。)の中にガリガリと一字ずつ筆耕をするのですが、その音と感触が50年前を思い出しました。しかしその内、画数の多いお慶びの「慶」や謄写版の「謄」などの字が登場して慌てふためくことになりました。拡大メガネを使ってごまかしましたが、50年の視力の衰えを思い知らされました。

鉄筆でガリガリ文字を切る

 ガリ切りを終え印刷ですが、これはなんとか乗り越えたのですが、刷り上がりから5日たってもインキが乾きません。インキがすぐ固まるとスクリーンやロウ原紙が詰まってしまうので、ガリ版用のインキは流動性がある乾きの遅いのが特徴です。その用紙は、乾きが悪すぎるということで中止。取引のある紙屋さんから孔版用紙用と推薦された紙でしたが、インキの浸透がいまいちでした。そこで、昔ながらのわら半紙(更紙)を売っているところを突き止め早速購入しました。もちろん、初めからやり直し。またガリガリ切って2回目の印刷です。印刷は1枚刷るごとに合紙(裏うつりを防ぐための紙)を入れて裏うつりを防いで、翌日にやっと完成しました。

さあ印刷です
刷り上がりました

 
 ところで、前号で、「エジソンの特許をもとに実用化したのがアメリカシカゴのA/Bディック社(この名前が出てきて驚きました、いつか触れます)」と記したのでちょっと説明をします。
 このA/Bディック社はその後、軽オフセット機の名機を作った会社で、当社は45年前その印刷機を新品オフセット印刷機(それまでの機器はほとんど中古品)として導入した思い出の印刷機なのです。いわゆる軽オフセット印刷機で、正確な見当合わせなどができない機械(多色刷りに不向き)ですが、その気になれば万能な力を発揮しました。
 通常の紙から、その気になれば封筒やはがき、薄紙まで印刷できる能力をもっていて、版の取り替えなどが迅速にできる優れものでした。当時の国産メーカーも似たような印刷機を作りましたが、なかなかその品質に追いつくことができませんでした。若いころ夢中になって万能な力を引き出したこともあり、懐かしいメーカー名とその歴史にふれて感慨深いものがありました。

メールマガジン『ぶんしん出版+ことこと舎便り』Vol.29 2023/10/23掲載


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