本日の「読了」
本日の「読了」デイヴィッド・クォメン『生命の〈系統樹〉はからみあう ゲノムに刻まれたまったく新しい進化史』(的場知之訳 作品社 2020)
残念な脳細胞の持ち主のおっさんは知的興奮を得られませんでしたが、本書の内容に知的興奮を覚えるかた、描かれる学者たちの人間模様に含み笑いをされるかたもいるのだということを想像するのはたやすい本です。
ダーウィンの進化論や生命の系統樹を学んだ(といっても義務教育レベル)のは半世紀近く前。その後、分子生物学とか、遺伝子解析の進展により「進化史」が変わってきていることは知っていたけれど、系統樹の「樹形」が変わっている──それも「根」本的に──とは知らなかった。
本書では、記憶のなかの系統樹を切り倒す杣人(研究者)と、倒木更新後の系統樹の姿、ダーウィン以来の進化論にどのような影響を与えたのか、研究者の人間模様を絡めながら描いていく。
副題にゲノムとあるように、ボノボとヒトの見た目や性質の違いではなく、いま話題のcovid-19ウィルスやその予防RNAワクチンの領域の話。
本書で語られる種間を越えた「遺伝子の水平移動」の話からは、予防薬のRNAワクチンが人間の遺伝子を便利に変える(5G化するとか、磁石化する)とか変えないという噂よりも、すでにヒトがヒトであるのは、その結果なのだということが理解できる。
たとえば、哺乳類が爬虫類と分岐したときの「イノベーションである」胎盤(母体が胎児を異物として排除しない調整機能をもつ)を手にしたのは、のちに胎盤を持つことになる哺乳類の遺伝子に入りこんだウイルスが持っていた性質に由来するのだという。そして「ヒトの遺伝子のかなりの部分はヒト以外の生物に由来する」のであり、それは本書の最終章のタイトルでもある「ヒトは多からなっている」につながる。大風呂敷を広げるなら、生物多様性の重要性はそこにある。知能が高いクジラや類人猿だけが重要なのではなく、ヒトの「ゲノム友だち」は種を越えてあちこちにいるのだということ。
ダーウィン以来の系統樹が切り倒されて創造論者が喜んだというくだりも面白かった。これはおっさんの”ぶっとび”妄想に過ぎないのだが、現在の反ワクチン派の情報源には、創造論者がいるのではないのか、と。
おっさんが拾った”うんち”くネタをもうひとつ紹介。
常日頃、健康食品の宣伝で「100億個の乳酸菌」とか言われると、そんなに体に入れて満腹にならないのか、かえって体に悪いのではないのかと感じるのだが、本書に、人の腸には約1000種類の細菌が棲んでおり「全マイクロバイオームを合わせた重さはヒトの体重の1~3パーセントでしかない。体重90キログラムの成人なら0.9~2.7キログラム、体積でいえば1.6~5リットル程度だ」と、あっさりと書いているのだが、素人のおっさんには、体内に2リットルのペットボトル1本分の細菌がいるかと思うと驚く。潔癖症の人なら気を失うのではなかろうか。
繰り返しますが、おおかたのひとは知的興奮はしませんが、知識のバージョンアップには最適です。系統樹はすでに”樹”ですらないのです。
[2021.09.19.ぶんろく]
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