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忘れっぱなしの忘れんぼのバナナケーキ

 !!!!ぶひい!!コルクの蓋がバラバラに!!指まで切ったあああ~!!!

 コルクが割れ、更にワインオープナーで指を切っちゃうという地獄絵図!!! そして2度と引き出せない程崩れたコルク!お手上げだ!!

なすすべ無し!

 慌てて絆創膏(ケアリーヴ)の箱に指を突っんで掴んだものは・・

「ピンク!マイメロディちゃん柄!!!!」(しかもなんか古い)

絆創膏の中には現実とは裏腹にのんびりした世界が。

 ぐおお・・・何故ケアリーヴの箱の中にマイメロちゃんが??
明日は運動・・カウンターで係の人に使用チケットを渡す際、確実に見られてしまう位置、チケット渡そうもんなら。

「こんにちは♪私はマイメロディ♪昨日しくったおばちゃんの指に今いるの♪」とか言うくらいの主張を見せつられたカウンターのいつも愛想のよい若い女性に、
「可哀相に・・・」
とか哀しい顔をされてしまうこと必死!!生類憐れみの令!!

※ちょい滲んでいたのでボカしましたが、マイメロちゃんの絵があるのでなんかボカしたら余計怖い感じに。

結局着けました!!チクショウ!!!!wwきゃわゆ~いん♪

・・・などと、いきなりの出だしでしたが、コルクが割れたのは事情があるのです・・

 皆様、森村桂さんという方はご存知でしょうか?映画「天国にいちばん近い島」の原作者で、数多くの本を出された作家さんです。

 1960~80年代の人気作家で文筆活動や大人が学べる学校、絵も描いたり幅広く活動、そして後年は軽井沢で「アリスの丘のティールーム」を開き、そこで出されていた人気ケーキが「忘れんぼのバナナケーキ」。
 森村桂さんがニューカレドニアからニュージーランドに行った時に覚えてきたお菓子らしく、作り方も豪快で南の島らしいお菓子。森村さんのエッセイにはそんなバナナケーキの人気さが書いてあり、
「さぞかし美味しいのでは??」と、長年の憧れでした。今回はそんなバナナケーキ作っちゃいます!材料はこちら!

バター 赤砂糖(三温糖) ブランデー 薄力粉 ベーキングパウダー 卵

 材料は至ってシンプル。出来るだけ桂さんが当時作っていた素材に近づけようとエッセイ内で書かれていた、赤砂糖(三温糖)、そして薄力粉に関しては「アリスの丘」に出していた「ドイツの粉ひき小屋で挽いた粉」と書いてあるのですが、その粉、アリスの丘を訪れた有名な製粉会社の重役が「この粉はうちがお願いしても取引出来なかった粉」というくらい貴重な粉、まじか、小麦粉は日清フラワーしか知らず、「小麦粉と薄力粉って違うの?」とかのたまう位低レベルな私が手に入れられるはずも無く・・・仕方がないので、それ以前に桂さんが賞賛していた「フランス産の粉」を購入しました。

 そして問題はブランデー・・桂さんのエッセイ内ではよく「ナポレオン」「コニャック」「ブランデー」と載っており、こちらも死ぬほど酒を知らない私にとって「ナポレオン」と「コニャック」と「ブランデー」は全くの別物だと思っておりましたが実際は「コニャック地方産の特級がナポレオンのブランデー」だったのです!!
 なんだそれ!!そして1~2万する!!数滴なのに・・・このコニャック、桂さんの夫の三宅一郎氏の手記「桂よ。わが愛・その死」では「アリスの丘」でも惜しげもなくお菓子に入れていたとか・・さすが人気作家、そりゃあ繁盛します・・
 材料は多くは無いですが、なかなかの難題ばかりでまるでかぐや姫に焼きそばパンをパシらされた求婚相手のよう!!!
 しかし今現在令和のこの時代、強い味方「メルカリ」があります!メルカリ出品者の皆様の長期自宅保管の古いブランデーは3~5千円!やった!!皆様ありがとう!

メルカリでゲット!

 ・・と、安心したのもつかの間、世の中はそんなに甘い物では無く、冒頭のような惨事に見舞われるのです・・どうやら古酒はコルクが劣化しボロボロになることがあるらしく、気づかず勢い余ってワインオープナーで流血!!そしてコルク抜けねえ!!www ふぬぬぬ・・!!!!!その後、ワインオープナーやピンセットなどでもテコでも穴から動かぬコルクの抜き方を検索したところ、「諦めて中に押し込め!」とのこと。ブヒーw!コルク風味追加!!
 そして今回参考にする本はこちら、

「桂のケーキ屋さん」昭和61年海竜社発行

 桂さんはいつもケーキをざっくり作られていたようなので、計量が掲載されてる本は数冊。こちらは桂さんの基本の「カトルカー」(小麦粉、バター、卵、砂糖が全て同じ量)を基本にバナナケーキのレシピが掲載されています。
 つーわけでとにかく作っていきますぞ!!

室温でバターは柔らかく

 柔らかくしたバターに赤砂糖を手で混ぜます。・・そう‥手で!!桂さんは手でこねることを推奨しているのです・・・仕方がない・・右手は絆創膏がついてるので左手で・・・ぬちゃぶちゃべちゃするううう!!
 大人になると手にべとべと何かがつくのは嫌なものですが、桂さんのエッセイ内では手でこねることをとても楽しそうに書いています。パネェ・・

 そんな桂さん、実はとても波乱万丈な人生を送って来られたのです。父は作家で母は歌人、ぱっと見華やかに聞こえますがいつも家にはお金が無く、久しぶりの仕事で帰ってきた父がなけなしのお金でケーキを買ってきた時は桂さんが怒った程。すげえ・・・
 その父も学生時代に亡くなり、桂さんは大変な苦労をされ出版社に勤められた後人気作家になったようです。その時初めてニューカレドニアに行き、その経験を元に「天国にいちばん近い島」を書き人気作家に。ニューカレドニアへ行かれたのが1964年東京オリンピックの年で海外旅行自体も珍しかった時代。しかも女1人で貨物船に!驚きです。

卵を投入

 卵を入れて更に混ぜます、ねちゃぐちゃべちゃべちゃ・・・
 桂さんは明るく少女のような方だったようで、文章や旦那さんの手記からもその様子がうかがえます。本の内容も面白く、文章もキレッキレで魅力的でしたが、最初の結婚期間の本は時折暗い影が潜んでいます。

フランスの粉の種類、感じが日本産と何かが違う!

 薄力粉を入れ混ぜます。ちょっとづつなのにかなり一気に入れてしまった・・・
 桂さんの最初の結婚期間はかなりの書籍が出てTVにも出る売れっ子時代。しかしなんだかエッセイでは常に調子が悪く浮かない文章が多々見られ、テンポもイマイチ。離婚後のエッセイや二度目の旦那さんの手記では最初のけっ婚はあまり良い結婚生活では無かったようなことが書かれています。
 そしてここでバナ・・あ!!バナナ紹介忘れた!!

熟したバナナ。もう1日待ちたかったが予定があった。

 エッセイでは外に干したバナナを使うと書いてありましたが、うちの外にバナナを干したものなら一瞬でカラスのデザートにされてしまうのでそこそこシュガースポットが出ているバナナを使います。これを生クリームであえた方がお店に来られたお客様に喜ばれたようなので私も混ぜます。(生クリームも紹介忘れた・・)
 ・・・そしてあんなに大騒ぎしたブランデー!!バターと砂糖を混ぜた後に入れるはずなのを忘れて慌てて投入!・・・こんなに何もかも忘れ過ぎて自分の名前も忘れそう・・・うう・・私はアンジェリーナジョリーです。

生きる価値が無い程くだらないギャグを言ってる間に入れました。

 さ て、その材料を型に入れましたが、桂さんは鉄板にアルミホイルを敷いてオーブントースターで焼いてましたが、うちのオーブントースターはサイズも小さくオーブンで焼くことに、そして本文では火加減と時間が書いていません。そこで悩んだ挙句こちらの本。

「天国にいちばん近い島よ永遠に」平成8年 海竜社発行

 本中にバナナケーキのルーツが掲載されており、こちらにもバナナケーキのレシピが。
 しかしこちらは少し高度で「牛乳にベーキングソーダを入れぶわっと泡でふくれたものを・・・」ってなんかそれ初心者でも上手くいくやつ?しかも量は「ごく少し」としか記入されていないけど小麦粉も日清フラワーしか知らない人間も作れるやつなの??
 と、困惑したので悩んだ末、こちらのレシピはやめましたが、ここに「180度で26~30分」と記載!・・これだわ・・・テンキュー!
そして180度のオーブンできっかり30分後・・

よし焼けた!

 おお・・なんとかなった・・うすうすお気づきでしょうが、私は実際の「アリスの丘」のバナナケーキは食べたことがありません。

軽井沢をイメージしました。分からんけど。

 桂さんはその後再婚され、軽井沢に「アリスの丘」をオープンされます。その頃の桂さんのエッセイは常に楽しそうで美しい軽井沢の自然が事細かに書かれており、光輝く軽井沢の風も、光の粉が落ちてきそうな瞬いた星空の美しさも感じられる程文章もキレッキレです。※そうは書いてないが私自身勝手にそう感じた。

そんなに膨らまないケーキです。

 ではでは、冷める前にいただきます!暖かいうちに食べるのがコツだとか。

 お・・美味しい・・手でこねることになった時は大丈夫なのだろうかと絶望の淵にいましたが、以前作ったバナナのパウンドケーキの何倍も美味しい!!

色もイイ!

 外はサクサク、中のバナナはとろ~りしててあつあつが舌にまとわりついてたまらない!!コニャックの香りも素晴らしく、流血してよかった・・(体もお金も)うひ~!!
・・・ん?なんか甘い??・・はっ!!!
 しまった・・カトルカーの基本ですが、桂さんのレシピはかなりお砂糖は控え目なのです。が!あのコルク格闘流血事件でカトルカーの分量だと思い込み小麦粉、バター、卵、砂糖が全て同じ量にしてしまいました!!
 ・・・しかしここまでうっかりして良く完成したな・・
 でも甘くても美味しい!いっぺんに3切れも食べちゃった・・バナナケーキはパウンドケーキ型(ちなみにパウンドケーキはカトルカーと同じく同じ量(1ポンドづつ)を入れて作るのが起源です。)のように厚みがあるよりこのくらいが食べやすく感じます。

 こういう風に桂さんは毎日お菓子をお客様の為に作っていたのでしょうか。私が桂さんを知ったのはまさにに映画が大流行りした時ですが、実は本を読み始めたのが大人になってからです。
 何故かと言うと、当時私は「森村桂さんのような人」がとても好きでは無かったです。私は元々田舎に住み、家庭環境も閉鎖的だったせいか桂さんの写真を見るとなんだか普通の大人と違うように見え、少し訝しい感じがしてあたからかも知れません。
 なので全く本に関しては興味がありませんでしたが、いざ読んでみるとその恐ろしい才能?いえ魅力にもはや「ヤバイ・・」という完全に語学力を失うような感想しか出てきませんでした。もうハマった私は貪るようにあれこれ絶版本を読み漁ります。もう後半数冊は同じようなことが書かれていてもお構いなし、一挙手一投足全て知りたい!この不思議な魅力は何?もう桂さんのことを思うとな涙まで出てきちゃう!!大人なのに何?この謎感情!!
 何故そんなにも惹きつけられるのかは説明がつきませんが、たまにSNSなどで本を紹介すると「桂さんは今でも大好きです。」という人が多くいらしています。
 そんな今でも人気な方なのに、何故かどの本も絶版でまるで世の中がファンの方以外が皆森村さんを忘れてしまったように感じるのです。
 確かに桂さんの話題をすると、最後のことも触れる場合があるので躊躇してしまうのかも知れません、かく言う私もどう扱って良いか分からずこの「バナナケーキ」は長年保留にしていました。
 でも、でもですね、ある時メルカリで桂さんの絵本を購入し、開いた時点でそう遠くない時に書かなければならないと感じてしまったのです。
 だって、絵本の表紙裏には桂さんのサインの代わりであろう絵と「私の名前」が書かれていたのですから。

まさか自分の名前が書かれているとは・・

参考文献
「森村桂アメリカへ行く」角川文庫 1976年
「森村桂パリへ行く」角川文庫 1976年
「森村桂香港へ行く」角川文庫 1979年
「お菓子とわたし」角川文庫 1994年
「森村桂の食いしんぼ旅行」角川文庫 1980年
「アリスの丘の物語」角川書店 1984年
「アリスの丘のケーキ屋さん わたしのティー・ルーム奮戦記」中央公論社 1986年
「桂のケーキ屋さん 自慢の手作り焼菓子36種」海竜社 1987年
「パンドラの箱あけちゃった」中央公論社 1991年
「桂の絵童話館 プーさんとアリスの丘の仲間たち」海竜社 1991年
「天国にいちばん近い島よ永遠に」 海竜社 1996年
「アリスの丘のお菓子物語」海竜社 2004年
三宅一郎 著「桂よ。 わが愛・その死」 海竜社 2005年
※ほぼ絶版ですが、角川から出版されたものの一部は角川の電子書籍「ブックウォーカー」にて購入可能です。


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