親なきあとに宗教者の支え 文化時報社が財団設立
※文化時報2021年12月16日号の掲載記事です。写真は「お寺と教会の親なきあと相談室」鹿児島市支部を開設した浄土真宗本願寺派妙行寺での講演会。
障害のある子や引きこもりの子が、親の世話を受けられなくなった後にどう生きていくかという「親なきあと」の問題で、宗教者から協力を得られるようにと、文化時報社は一般財団法人「お寺と教会の親なきあと相談室」(小野木康雄代表理事)を設立した。全国の寺院などに相談室支部を設け、僧侶らが福祉や法律などの専門職と連携。本人と家族の悩み事や困り事に対応していく。
文化時報社が推進する福祉仏教の一環。宗教者は看取りと弔いを専門にしつつ、檀家・門徒や信者をケアできる。この特徴を生かし、地域で暮らす障害者と家族に生涯寄り添う存在となれるよう、財団が支援する。
財団は、法定の評議員と理事に加えてアドバイザーを置き、相談室支部の開設や運営を巡って具体的に助言する。専門職による利益誘導を防ぐため、指導も行う。将来は活動経費の助成も視野に入れる。
財団設立は10月28日付。相談室支部は浄土真宗本願寺派妙行寺(井上從昭住職、鹿児島市)で開設されており、真宗出雲路派長慶寺(泰圓澄一法住職、福井県越前市)がつくる越前支部は、来月13日の福井県社会福祉士会のオンライン研修に協賛する。津市などでも準備が進む。
「文化時報 福祉仏教入門講座」の受講者から開設を希望する宗教者を募っている。
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きょうだいの悩み知る
鹿児島市支部で西野さん講演
「お寺と教会の親なきあと相談室」鹿児島市支部を開設した浄土真宗本願寺派妙行寺は4日、「鹿児島きょうだいの会」代表で言語聴覚士の西野将太さん(35)を招いて講演会を開いた。相談室支部としては初の行事で、35人が聴講した。
障害のある兄弟や姉妹がいる人たちは、さまざまな葛藤を抱えており、悩みを分かち合う活動が全国で行われている。
西野さんは昨年5月、知的障害と身体障害のある妹がいる益満ひろ士さん(27)と、鹿児島きょうだいの会を立ち上げた。
西野さんの弟(24)は、2歳の時に重度の知的障害と自閉症だと診断された。講演で西野さんは、それから家庭内の空気が一変し、母の口数が減ったと回想。自身は11歳離れた弟を風呂に入れたり寝かしつけたりするようになったと明かした。
高校時代は野球に打ち込んで下宿生活を送り、弟と距離を置いたものの、以前リハビリに付き添った際に言語聴覚士から「お兄ちゃん、偉いね」と言われたことを思い出し、卒業間際に進路を変えて同じ道を志したという。
西野さんが専門学校に入学すると、父は「(弟が)いつしゃべれるようになるんだ」と尋ね続けた。正月に親戚たちの前で「障害のある子が生まれて申し訳ない」と言ったときは、怒りが込み上げ、「弟は必死で生きている。弟に謝れ」と詰め寄った。
言語聴覚士になってからは、専門職の視点を養った。「弟には弟の人生がある。両親も『親』という特定の役割だけ担う必要はない」。両親と話し合い、弟が10歳の時に施設への入所を決めた。
きょうだいは、親なきあとに本人の面倒を見るかどうか、親との関係をどうするかといった悩みを抱えるという。西野さんは「家族外からの援助を上手に活用し、思いを口に出せる場を作りたい」と語った。
お寺が話せる場に
講演後には、一般財団法人「お寺と教会の親なきあと相談室」の理事兼アドバイザー、藤井奈緒さん(48)も登壇。「相談して何が解決するわけではないかもしれないが、一緒に考えて悩みを共有することが大切。そういう場が全国のお寺や教会に広がっていけば」と期待を示した。
井上從昭住職は「お寺が何でも話せる場になればと思う。身近に悩みがある人がいれば『お寺へ行ってごらん』と勧めてほしい」と呼び掛けた。
西野さんは「お寺の方々が協力してくださると聞いて最初は意外に思ったが、貴重な機会になった。いろいろなお寺できょうだいのことを知ってもらえれば」と話した。
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