【能登半島地震】被災地の課題知る 園崎秀治氏と考える宗教団体の災害支援㊤
災害支援の専門家として宗教界でも知られる「オフィス園崎」代表、園崎秀治氏(53)=千葉県浦安市=は、能登半島地震の発生直後に被災地入りし、社会福祉協議会や民間のボランティア活動を後方から支えてきた。宗教者による支援にも関心があり、宗教教団のネットワークが有効だと考えている。今回の地震で、宗教者には何ができるのか。インタビューからヒントを考えたい。(主筆 小野木康雄)
過去にない破壊力
――今回の能登半島地震の特徴を、どのように捉えていますか。
「地震の規模を示すマグニチュード(M)7.6は1995(平成7)年の阪神・淡路大震災(M7.3)や2016年熊本地震(同)より大きく、すさまじい破壊力でした。発生10日後に石川県輪島市へ入り、特にそう感じました」
「水道管被害が最も大きかった能登町の被害箇所数は、東日本大震災で最も被害を受けた宮城県湧谷町の約7倍だったことが、国の調査で分かっています。水を用いた日常生活が元に戻らなかった時間の長さは、今までの災害になかったと思います」
――半島の脆弱(ぜいじゃく)さも浮き彫りになりました。
「海底の隆起や津波で港湾が使えず、海からの支援ができませんでした。当初は、かろうじて通れる道路から現地に入る状況が続きました」
「一般車両で渋滞すれば緊急車両が通行できなくなるため、石川県は能登への不要不急の移動を控えるよう呼び掛けました。これが今回の災害支援の一番のネックになってしまった、と私は思っています」
自粛…現場入り広がらず
――現地入りを自粛すべきかどうかという議論になり、行政の呼び掛けに従って「行かない」と判断するボランティア団体や宗教者もみられました。
「移動を控えてほしいというメッセージが強く出すぎたことで、思いのある人たちが現場に駆け付けて『できることをやろう』という動きが大きくならなかった。このメッセージを今なお打ち消していないことが、支援が遅れて、被災した人々の生活環境が劣悪なまま続いている要因の一つだと考えています」
――たしかに、マンパワー不足は現地からよく聞こえてきます。
「大勢の人が入っていれば、炊き出しの回数は増え、避難所に入れなかった人々に物資を届けられたはずです。重機の操作や屋根の修理など専門的な技術のあるNPOが、人手が足りないから炊き出しに追われたという話も聞きました」
《石川県が日本赤十字社石川県支部、石川県共同募金会と連携して受け付けた義援金は、地震発生3カ月後の4月1日時点で563億5000万円余りに上った》
――一方で、遠方から被災地へ思いを寄せている人々もいます。
「心配しているからせめてお金だけでも、と送った方々が多いのだと思います。ただ、義援金は配分に時間がかかるので、被災者が一番困っている時期に活用されるお金ではありません」
「足りないのが、被災地で活動するNPOやボランティア団体、社協への支援金です。支援金があれば、現場での活動をすぐにでも充実させられるのに、国民の間には支援者にもお金が必要だという意識が薄いようです。その点、真如苑が災害時に被災地の社協や災害支援団体に支援金を贈る取り組みは、大変有意義だといえます」
行政は公助に専念を
――災害ボランティアセンターの動きについては、いかがでしょうか。
「災害ボランティアセンターは市町村の社協に置かれますが、特に輪島市や珠洲市では、職員も自宅が損壊し被災者となりました。社協の事業自体ができていません。例えば珠洲市社協は、利用者の居所が分からなくなって訪問介護事業が継続できず、職員の離職が相次いだ。今後、利用者が戻ってきても、再開できる見通しはありません。そのような中で災害ボランティアセンターの運営を担わなければならない状況にあります」
《輪島市社協に災害ボランティアセンターが設置されたのは1月25日。ボランティアの受け入れを始めたのは2月10日だった》
「輪島市社協は外部の支援者が手伝ってようやくボランティアを受け入れたのですが、住民の立ち会いが必要とされて活動時間が限られる家屋の片付けや撤去は、マッチングが難しい。輪島市に限りませんが、復旧が遅々として進まず、手応えを感じられないことが、能登半島地震の一番の問題点かもしれません」
――被害の甚大な所を優先して、市外・県外からボランティアを送り込むことが必要ですね。
「ところが石川県には、それが難しい事情があります。47都道府県の中で唯一、県社協ではなく県庁が県域の災害ボランティア本部を仕切り、ボランティア活動に関わる調整全般を行う体制をとっているのです。1997年のナホトカ号重油流出事故の時につくった仕組みが、そのまま続いていると聞いています」
《97年1月、ロシアのタンカー「ナホトカ号」が島根県沖で沈没し、積み荷の重油が大量に流出して日本海沿岸に漂着。各府県で延べ約27万人のボランティアが回収作業に当たった》
――他府県はもっと融通が利く体制になっているのでしょうか。
「多くの県では、日赤や社協、行政、NPOなど複数の組織が寄り集まって、平時からネットワークをつくっています。そして災害が起きると、情報を共有し、市町村の支援のために調整を行います。それを、石川県は県庁職員だけでやっているのです」
「ボランティアは公助ではありません。あくまで民間の善意です。災害時には必要とされる公助に専念し、民間であるボランティアの調整は社協のような民間団体に任せるべきである。私が強く訴えたいことです」
宗教のネットワークに期待
――受け入れ体制が整わない中で、NPOやボランティア団体は今回、どのように動いたのですか。
「多くの技術系NPOが珠洲市を目指しました。昨年5月に珠洲市で震度6強を観測した地震でも、支援に入った経験があり、人や土地を知っていたからです。2007年3月の能登半島地震で活動していた団体は、年数を経たので数は少ないですが輪島市や穴水町に入りました。また社協活動の活発な氷見市には、全国各地の社協が平時からのつながりを生かして支援に向かいました」
「普段からネットワークのある所は、助けに来てもらえる。それがないと、みんな『初めまして』の関係だから、すぐには人が行けないのだと思います。その点、真如苑のような全国規模の宗教団体はいいですね」
――宗教団体ならではのネットワークがあるということでしょうか。
「そうです。全国各地に信徒がいて、施設があるので、支援が必要なときに目掛けて行ける先があります。教団のネットワークが災害時に機能していると感じます」
《真如苑は資金や支援物資の提供にとどまらず、穴水町の能登支部を拠点に真如苑救援ボランティアSeRV(サーブ)が活動しており、地元の穴水町社協に設けられた災害ボランティアセンターの運営も手伝っている》
――真如苑の災害ボランティア活動を、どのように見ていますか。
「これまでの災害現場で積み重ねてきた実績があります。SeRVという組織があり、複数回支援に関わってきた信徒もいて、ノウハウがしっかりされている。災害ボランティアセンターを通じて活動しているので、顔の見える関係を築けるのも特長です」
「したがって、信頼感があります。宗教団体に限らず、思いは強いけれどもハレーションを起こしてしまう団体がありますが、真如苑に関しては、そうした悪い情報は一切聞いたことがありません。被災地に入る作法を、よく心得ていらっしゃるのだと思います。各地の災害ボランティアセンターのやり方に合わせられる柔軟性があります」
――中でも印象に残っている真如苑の活動はありますか。
「2016年の熊本地震で熊本市社協が場所に困っていたとき、真如苑熊本支部の駐車場を貸していただいて、災害ボランティアセンターのサテライトを開設したことがあります。ハード面でも協力してもらえた事例として、社協のネットワークを通じて情報が共有されました。今や災害に携わる社協の職員で、真如苑やSeRVの存在を知らない人はいないと思います」
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