「お坊さんのいる病院」強み生かして経営改善
出口湛龍理事長に聞く
※文化時報2021年5月10日号の掲載記事です。
浄土真宗本願寺派関係の一般財団法人「本願寺ビハーラ医療福祉会」が運営する独立型緩和ケア病棟、あそかビハーラ病院(京都府城陽市)が本年度、経営改善への新たな取り組みに着手する。昨年度策定した医療事業計画に基づき、地元・城陽市での在宅医療などを展開。「本願寺の保健室」として親しまれた西本願寺あそか診療所(京都市下京区)も新築移転工事を終え、地域社会に根差した「あそか花屋町クリニック」として生まれ変わる。医療福祉会の出口湛龍理事長が、今後の展望を語った。(安岡遥)
賛助会員で応援の輪
《本願寺ビハーラ医療福祉会は昨年度、本願寺派総局が選定した医療コンサルティング業者の提言に基づき、「平均稼働病床15床」「在宅患者90人」を軸とするあそかビハーラ病院の医療事業計画を策定。運営を支える賛助会員の募集も予定し、経営改善に向けてスタートを切った》
――65歳以上の慢性期患者を対象に、訪問診療枠を拡張する目標が示されました。
「訪問診療にはビハーラ僧=用語解説=が同行し、話し相手を務める予定です。ビハーラ僧の存在を広く知ってもらう狙いもあり、いずれは僧侶だけで訪問することもあるかもしれません。『お坊さんのいる病院』ならではの強みとなるでしょう」
「平均稼働病床数の向上に向け、医療スタッフの増員も課題の一つです。当院が提供しているのは看取りの医療。患者を治し、社会へ送り出す医療とのギャップに耐え切れなくなるケースもありましたが、現在はスタッフの定着が進んでいます」
「急性期患者の看取りは非常に重い現場。覚悟を決めていても心が折れてしまうことがあります。スタッフが一丸となり、患者を最優先に考える姿勢が最も重要です」
――本年度から募集が始まる賛助会員についてお聞かせください。
「個人は1口5千円、企業は3万円から年会費を支払っていただき、あそかビハーラ病院やあそか花屋町クリニックの運営に充てます。少額ずつ継続してご支援いただくことが目的です」
「2019年に行ったクラウドファンディングでは、目標額を上回る866万円が寄せられたほか、病院の理念に共感し、援助を申し出てくれた企業もあります。賛助会員の募集を機に、応援の輪がさらに広がればと考えています」
コロナ下でも面会継続
《あそかビハーラ病院と特別養護老人ホーム「ビハーラ本願寺」は昨年4月、新型コロナウイルス感染者への対応などを定めた事業継続計画(BCP)を導入。徹底した安全管理の下、ビハーラ僧による心のケアや家族との面会を続けている》
――コロナ下で面会を受け入れ続けている病院は全国でもまれです。
「残された時間の少ない方々にとって、ご家族との面会は何物にも代え難い時間。患者さんの幸せを一番に考え、続けるべきだと判断しました。スリッパなどを使い捨てのものに替え、窓から直接病室に出入りしてもらうことで、安全に面会を続けています」
「一方、病院を必要としている方や支援を考えている企業などに、取り組みが十分周知されているとは言えません。広報体制を整え、支援者と理解者を増やすことが課題です」
――ビハーラ僧養成の現状はいかがですか。
「本年度からビハーラ僧の管理体制が変わり、給与に宗派の助成が適用されます。医療福祉会に助成金が支給され、病院や特別養護老人ホームで活動しているビハーラ僧の給与などに充てられます」
「しかし、入院患者の安全を第一に考えれば、現場への研修生受け入れは当面難しいでしょう。武蔵野大学、兵庫大学、岐阜聖徳学園大学との間では、オンライン研修の実施に向けて調整を進めています」
《耐震構造上の問題で昨年から新築移転工事に入っていたあそか診療所は、6月1日に「あそか花屋町クリニック」としてリニューアルオープンする》
――「本願寺の保健室」として親しまれてきた診療所ですが、新築開院後はどのような事業を予定していますか。
「本願寺職員だけでなく、地域住民に開かれたクリニックを目指しています。医師4人が診療に当たり、合間には無料健康相談や生活困窮者の支援にも取り組む予定です」
「地域からはすでに、『開院が楽しみだ』と期待の声も寄せられています。『本願寺さんの病院』という信頼を追い風に、地域に根差した活動を展開していきたいと考えています」
◇
【用語解説】ビハーラ僧(浄土真宗本願寺派など)
がん患者らの悲嘆を和らげる僧侶の専門職。布教や勧誘を行わず、傾聴を通じて相手の気持ちに寄り添う。チャプレンや臨床宗教師などと役割は同じ。浄土真宗本願寺派は、1987(昭和62)年に医療・福祉と協働して生老病死の苦しみや悲しみに向き合う仏教徒の活動「ビハーラ活動」を展開しており、2017年度と19年度には「ビハーラ僧養成研修会(仮称)」を試行。計10人が修了した。
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