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死生観の再構築議論 滋賀県「第2回死生懇話会」

※文化時報2021年7月1日号の掲載記事です。

 誰もが避けられない死について考え、生を豊かにするきっかけをつくる滋賀県主催の「第2回死生懇話会」が6月19日、県庁で行われた。浄土真宗本願寺派僧侶で龍谷大学農学部の打本弘祐准教授ら委員6人と、三日月大造知事らが出席。オンラインと会場で計約170人が学びを深めた。

 死生懇話会は、三日月知事の発案で昨年12月に県が設置し、今年3月に第1回の会合を開いた。価値観を押し付けず、一定の結論を出さないという行政では異例の取り組み。自由な語らいを通じて県民が死を日常から遠ざけず、生を大切にするよう促す狙いがある。

 この日はゲストスピーカーとして、京都大学こころの未来研究センターの広井良典教授が「死生観の再構築」と題して講演。脳の情報を機械に移植して意識を永続させる脳神経科学の研究などを例に、「現代版の不老不死は、人間を幸せにするのか」と問題提起した。

 その上で、日本人の死生観は、自然の中に有と無を超越した何かがあるという「自然のスピリチュアリティー」に結び付いていると指摘。生から死への緩やかな移行もあり得るとして、「生と死は連続的なものと捉えられる」と述べた。

 また、農耕社会では一人一人の死を超えて「もう一つの世界」が創造されたのに対し、都市化が進むにつれて死は抽象化され、孤独な個人が向き合うものになったと考察。「コミュニティーや自然とのつながりを回復することで、新たな死生観が開けてくるのではないか」と結んだ。

死生懇話会・休憩中

休憩中も委員が集まり、参加者の意見などを元に熱心に語り合った

個人差認め、より豊かに

 広井教授の講演後は、滋賀県立大学地域共生センターの上田洋平講師をファシリテーターに、委員らが死生観の空洞化などについて意見交換した。

 滋賀県介護支援専門員連絡協議会の楠神渉副会長は、介護現場での経験を元に「死は皆に訪れると知っていても、自分や家族のこととしてはなかなか理解できない」との見方を示した。

 滋賀県医師会の越智眞一会長は「死生観を生かせるのは自然死のみ。事故死や災害死では、残された人が生きるためのケアが必要になる」と語った。

 会場からは「リアルな死を知らない子どもに、死を伝えるのは難しい」との感想が寄せられた。

 これに対し、死生学研究者で関西学院大学人間福祉学部の藤井美和教授は「死そのものを教えるのはハードルが高いが、遺族の話やワークショップを通じ、引き寄せて考えさせることはできる」と助言した。

 また、NPO法人「好きと生きる」のミウラユウ理事は、生きづらさを感じる若者からの相談を引き合いに、「死にたい気持ちを否定せず、一緒に考えて、正解を導き出さないのが私のやり方」と語った。

 死後の世界に関する意見もあり、打本准教授は「仏教に限らず、あの世から先祖や家族が迎えに来るという死生観は、日本人の中にある」と指摘。「死生観には個人差があると認めることが大切。特定の教義を信じるかどうかではなく、思いを聞けば、死生観が豊かになる」と話した。

来年度も継続を 三日月知事が示唆

 三日月大造・滋賀県知事は6月19日、自身の発案で設置した死生懇話会について「1年や2年で結論は出せない。もう少し議論を広げたり深めたりしたい」と述べ、来年度も継続させる考えを示唆した。第2回会合後、記者団の質問に答えた。

死生懇話会・インデックス

死生観懇話会で発言する三日月知事

 次回の会合は9月を予定している。三日月知事は「議論が広がり、深まった。参加者からもさまざまな声が聞けたのが良かった」とした上で、「今後、どういうやり方で進めるかは知恵がいる。戦争、災害、疫病の中での死生観も考える必要がある」と語った。

 施策への反映については「問わないと言いながら、いつも考えている。生きづらさや息苦しさを感じさせる社会のありようは、重要なテーマだ」と指摘した。

 また、今後の会合で宗教を扱うかどうかに関しては、「宗教が生と死の間でどう関わってきたのかを学ぶことには意味がある。打本准教授や広井教授の意見を聞き、考えたい」と述べた。

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