悲しみのジョゼ
この世で一番、悲しい歌を歌う鳥
悲しみを囀ずる鳥がいた
入り口のない城に棲んでいる
誰も居なくなった広間で、開かれることのない舞踏会を夢見て
カナリアのジョゼは歌う
古びた石柱に刻まれた天使の
頬に残る涙のあとが、
月日と共に、灰色掛かった筋となる
ジョゼの歌から伝わる悲しみは、
闇夜に銀の涙を降らせた
埃の積もった床に跳ね返り、
天井のフラスコに吸い込まれていく
ジョゼの歌は、低く始まり
憂いて漂い、繊細な高音で細波を起こす
呼び起された悲しみは胸に深く、
咽び泣く声が悲哀の調べへと重なっていった
金糸の衣を静寂(しじま)に広げ、
陽の届かない広間にひとり
歌は紡ぎ出された
この世に悲しみがある限り、ジョゼは歌うだろう
その冷たく凍った、かぼそい喉から
悲しみのジョゼ
声なきカナリア
その調べは、決して幻ではない
bun★jac 2020.06.17
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