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インディ東京から、第一次世界大戦のプロパガンダ謀略戦争へ

コンテンポラリーなアートフェア「インディペンデント東京2021」へ、コンテンポラリーフォトアート仏画曼荼羅シリーズ「なむしばられぼさつまんだら」を出品した後、私の長期で取り組むべき仕事は翻訳業へと移ります。

この1-2か月は、コンテンポラリーフォトアーティストだったのですが、私もいろんな仕事をしているのであります。周りからは、よく無節操だと言われますが・・・。

この数年、ずーーーーっと格闘しているのがキャンベル・スチュアート著「クルーハウスの秘密」という英語の本。これは第一次世界大戦末期において、世界で最も性格の悪い政治家とその関係者たちの多い(これは政治的なほめ言葉です。つまりは残忍無比、冥府魔道、混沌無秩序の世界で、自国の利益をあらゆる可能性を考えつつ冷徹に追及していく能力がある、という意味ですが)イギリスが新興国ドイツ帝国に仕掛けていったプロパガンダ戦の記録です。

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第一次世界大戦というと遠い時代のことと思えるかもしれませんが、今の世界を概観すると、当時との類似性がいたるところに見いだされるのです。また第一次世界大戦で動員されたテクノロジーは、現代社会の基礎的なインフラとなって今の私たちを支えているのですから。

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この本に注目したのは池田徳眞・著「プロパガンダ戦史」という本からです。大東亜戦争中に世界各国のラジオ放送を受信し、情報分析を行い、また捕虜を使って対敵謀略放送を担った人物によるきわめて実務的な本です。その中にこの「クルーハウスの秘密」が詳細に紹介されています。またこの中公文庫版の解説の最期に、外交評論家?作家?の佐藤優が「あらたに日本語に翻訳されれば、わがインテリジェンスの水準を底上げすることになると思う」と記しているのですから。

とはいえ翻訳仕事としては難物です。20世紀初めの頃の英語であること。当時は当然のように一般的に知られていることが、21世紀を生きている私たちが知らないことになっていること。第一次世界大戦の錯綜した事実関係が、今の日本人読者には全く理解できないこと。当時の政治制度、国家の線引き、国境の引き方、また聞きなれない民族の名前がやたらに出てくること、などなどなどです。

また参考文献も多岐にわたります。ルーデンドルフは第一次世界大戦の将軍でした。ヒトラーは一兵士として前線にいて、毒ガスの洗礼を受けました。また英国からのプロパガンダの悪影響を憎悪し「わが闘争」のなかにわざわざ1章を設けて、書いているほどです。そしてヴィルヘルム2世はドイツ帝国の皇帝でした。

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ほかにも読むべき参考文献が多いです。まず世界史とイギリス関係の本。プロパガンダに特化した本は、ほとんど見ないのでこういう文献から、雰囲気や小さな事実を発見していくしかありません。

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また大局的な情報活動、インテリジェンス活動への基礎知識も求められます。いいかげんなチャラい本も多いので、要注意です。

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現在、第一次世界大戦時のドイツ帝国と同じように、既存の世界秩序に果敢な挑戦を試みている21世紀初頭の(ひょっとして第3次世界大戦前になるかもしれない)中華人民共和国の動向も押さえておく必要があるのです。

こういう書籍の購入だけでもかなりな金額になります。そしてその翻訳の手間といったら、面倒なことばかりです。

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でもこんな面倒で手間のかかる仕事に好き好んで取りかかっているのは、ただただ面白いからです。うまい酒もいい、グルメもいい、絶景の旅もいい、温泉でなごむのもいいですが、私の場合は、これがいちばん面白いのでありますなあ・・・。

この翻訳の内容を今の日本人読者にきちんと伝えるのは、前書きで第一次世界大戦に至るまでの世界状況、第一次世界大戦勃発から1年毎の戦況、クルーハウスというプロパガンダ組織が出来た1918年初頭までの英独のプロパガンダ戦、などを概説しなければならないようです。

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いままでいろんな翻訳に取り組んできましたが、これが一番の難物です。なにせ1400万人も亡くなっている戦争に関わる翻訳なのですから。戦没者などを、しばられぼさつで供養しながら、一日数ページぐらいの速度でこつこつ翻訳していくのであります。

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