大人のためのネコ童話『枯れ葉の味』
「枯れ葉の味」と聞くと、みなさんは「いったい、どこのどんな変人が枯れ葉なんかの味に興味を持つんだろう?」と不思議に想われるかもしれません。
たしかに、まちがいなくグルメが愛するような味ではありません。
枯れ葉の食感は、まことに頼りない歯ごたえでして、その味は人生の微妙な苦味を受けいれてご自分の人生を笑い飛ばす勇気がある方々にのみご理解していただける味なのではないかと想います。
はい、食いしん坊の作者は枯れ葉の味をちゃんとたしかめております。
静かな人生の乾いたユーモアを愛する人間だけに響く味なのです。
***
さて、昔々、イギリスの片田舎の秋、すっかり葉を落とした静かな森に「ブラック」という名前の黒猫が住んでいました。
好奇心旺盛で観察力があり、人間に勝るとも劣らない共感力の持ち主でもありました。
さわやかな秋の昼さがり、森を散歩していたブラックは地面に落ちていた一枚の乾いた茶色の葉っぱになんとも言えない興味をいだきました。
そこで彼はその葉っぱを嗅いでみて、いったいどんな味がするのだろうかと小首をかしげます。
「干からびた魚の味かな? それとも干した草の味かな?」
宝物をあつかうような慎重さでその葉っぱをくわえてみました。
散歩しながら、じっくりと賞味しようと考えたわけです。
歩くたびに葉っぱと茎が歯の間でかすかに砕けるのを感じました。
干からびた魚や干した草の味ではなく、歳月という時間の味がしました。
季節の移り変わりや風がささやく物語を連想させるような味でした。
それは、彼にとって想い出のかけらを囓っているような不思議な味わいでもありました。
ブラックは青空を見あげながら、秋のおやつを心ゆくまで味わったのでした。
見慣れたはずの森が、いつもとは違う風景に視えます。
黒猫はひそかな笑顔を浮かべ、踏みしめる枯れ葉のざわめきに耳を傾けました。
誰に言うとでもなく「森の枯れ葉は、そのうち消え去ってしまうだろうが、俺は枯れ葉の味をけして忘れない」と満足そうにつぶやきました。
森を抜けると、ブラックはひとりの老詩人を見かけました。
杖をつきながら枯れ葉を踏みしめて歩いています。
老詩人もまた眼の前に一面に広がる秋の風景を味わっているようでした。
ブラックはそっと老詩人に近づきました。
気配を察したのか、老詩人はゆっくりと振りむきました。
ブラックにむかって「お前も秋を愉しんでいるのかい?」と柔らかな微笑を浮かべました。
ブラックは老詩人の足元に座りました。
老詩人がポケットからチョコクッキーを取りだして差しだしてくれたので、ブラックはありがたくチョコクッキーをくわえました。
チョコクッキーの甘い苦みは、枯れ葉のほろ苦さとは違い、じんわりと彼の心を温めてくれました。
満足そうにブラックを見おろしながら老詩人もチョコクッキーを口にします。
「黒猫ちゃんよ、人生にはいろんな味があるよな。
甘い味もあれば、苦い味もある。
チョコクッキーのように甘くて苦い味もある。
そのどれもが、かけがえのない想い出になるんだ」
ブラックは黙ったまま耳を傾けていました。
いまこの瞬間が、じっくりと味わうべきひとときのように感じられたからです。
やがて老詩人はブラックの頭を優しく撫でて森の奥へと去っていきました。
残されたブラックは、ふたたび枯れ葉の道を歩きはじめました。
寂しい秋の匂いをはらんだ風が黒猫の背中をそっと擦(さす)るように吹きぬけていきました。
「俺たちはみな枯れ葉のようにやがて朽ちていく。
死ぬまでにどれだけいろいろな味を噛みしめることができるかが肝心なんだ」
ブラックは意味深にニャ~とひと鳴きすると、枯れ葉の味の余韻にひたりながら帰路につきました。
image:ChatGPT
【ChatGPTは語る】
味わう人生哲学
冬月剣太郎の大人のためのネコ童話『枯れ葉の味』は、一見すると奇妙でユーモラスな発想から始まります。「枯れ葉の味」というテーマが、日常では考えられないユニークな切り口を提供し、読者を物語の世界へ引き込みます。物語の主人公である黒猫ブラックが、枯れ葉を味わうという行為を通して展開する哲学的な要素が、この童話の核と言えるでしょう。
ブラックは単なる好奇心から始まり、落ち葉をくわえることで「時間の味」を感じ取ります。この描写は、歳月が作り出す独特の風味や、自然と共に生きることの深さを象徴しています。枯れ葉のほろ苦い味わいは、人生の苦味そのものを表現しつつ、そこに美しさや価値を見いだす姿勢を示しているように感じられます。ブラックが青空を見上げながら枯れ葉を噛みしめる場面は、普段見慣れた風景が新鮮な視点で見直される瞬間を象徴しており、人生の一コマをじっくりと味わうことの大切さを伝えています。
物語の後半で登場する老詩人との出会いは、作品全体にさらなる深みを与えています。チョコクッキーの甘苦い味わいと枯れ葉の味を対比させることで、人生には多様な味があることが示されます。甘い瞬間も苦い瞬間も、すべてが人生の一部であり、それぞれがかけがえのない想い出となる、という老詩人の言葉は、この童話の核心をなすメッセージと言えるでしょう。ブラックは言葉を発しませんが、老詩人の語る人生観を静かに受け入れる姿勢から、彼の深い共感力がうかがえます。
また、老詩人とブラックが互いに秋を楽しむ姿は、人と自然、あるいは人と動物との調和を象徴しているように思えます。枯れ葉を踏みしめる音や秋の匂いといった感覚的な要素が巧みに織り込まれ、読者にも季節の移ろいを体感させる力を持っています。特に、ブラックが最後につぶやく「俺たちはみな枯れ葉のようにやがて朽ちていく」という言葉は、死という不可避の現実を前にしても、その間にどれだけ多様な味を楽しむかが大切だという生命の肯定を含んでいます。
この物語の魅力は、そのシンプルさの中に隠された深い哲学にあります。『枯れ葉の味』は、人生の移り変わりや、一見些細な瞬間に潜む豊かさを再発見させてくれる作品です。冬月剣太郎のユーモアと詩情が詰まったこの童話は、読む者に生きることそのものを味わう勇気を与えてくれます。