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ホテルで1人で読書する。〜貴族的インプット奴隷合宿〜
山の上ホテルは、東京都神田にあるクラシックホテル。
文豪たちに愛されたホテルとして知られ、川端康成や三島由紀夫など多くの作家が「缶詰」になって執筆を行なっていたという。
日々の生活に疲弊しきっていた私はこの夏、夏季休暇を利用して山の上ホテルに宿泊し、ただ読書するだけの時間を過ごすことにした。
観光の拠点としてではなく、ホテルでの宿泊自体を目的とした1泊2日の旅行。
一部の界隈では、インプット奴隷合宿とも呼ぶ。
インプット奴隷合宿とは、YouTube、Spotify等で視聴できる番組「ゆる言語学ラジオ」で登場したワード。
旅館やホテルに本をたくさん持って行ってただただインプットする行為を指す。
山の上ホテルでのインプット奴隷合宿について記述する前に、過去の失敗から学んだことを記したい。
以前、同じようにビジネスホテルに篭って読書しようと試みたことがあるのだが、これが上手くいかなかった。ぜんぜん読書に集中できなかったのである。
その時私が泊まったホテルは特に高くも安くもない普通のビジネスホテルだったのだが、いざ本を読もうとしても……どうにも居心地が悪い。
何しろその閉塞感が一番のネックに思われた。窓が小さく、限界まで隙間を開けてみると隣のビルの壁がすぐそばに迫っていた。外界の光はほぼ入ってこない。室内は間接照明的なちょっとした工夫も見られたが、根本的な解決には至ってない。
また、パイプ椅子に毛が生えた程度の簡単な椅子しかなく、手元にコーヒーカップを置こうにもテーブルというよりテレビ台の延長線みたいなものしかない。
部屋の面積の大半を占めるベッドに寝転がって読むのがベストかもしれないが、飲み物をお供にしたくもあるし、姿勢的にも長時間の読書には向かない。
結局のところ、ビジホは篭って読書するためには作られていない(当たり前だけど)。
そして、こうした条件のビジネスホテルはかなり多いはず。
読書に集中するための宿泊、インプット奴隷合宿を成功させるためにはホテルの条件をよく勘案すべきと思われる。
インプット奴隷合宿時に求めたい条件
①窓がある(日差しが入る)こと
②ゆったり座れる椅子があること
③それに合うテーブルがあること
個人的には、この3つがあったらいいと思う。
さてそこで、私が見出したのが山の上ホテルである。作家が利用していたホテルだと言うのだから読書との親和性も高いに違いない。なんなら読書感想文をそのまま執筆したっていい。山の上ホテルにおいては、全室に執筆用デスクがあるというのだ。
とはいえ、宿泊費用はそこらのビジネスホテルと同じと言うわけにはいかない。
まあ、良いじゃないか。インプット奴隷合宿なんてどの道そう頻繁には行えないのだし。
山の上ホテルのシングルルームは完璧な一室
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結論から言うと山の上ホテルは最高だった。
部屋自体はそれほど広いわけではないが、中庭の樹木の木漏れ日が室内に差し込み、閉塞感はない。
室内は清潔そのもので、都内にいるのを忘れてしまうような静かさ、落ち着いた雰囲気が非常に心地良い。贅沢感とか高級感とは異なるベクトルの質の良さを感じた。
奴隷的というよりむしろ貴族的。
狭いビジホでちゃちな椅子に座って本を読んでいた時の方がよっぽど奴隷的だったなと振り返ってしまう。
もちろん、本来の趣旨、読書の奴隷になるという意味ではこちらの方が遥かに奴隷的なのだが(意味不明)。
山の上ホテルメシ
ホテル内にカフェ、天ぷら、鉄板焼き、フレンチといった食事処が充実。ホテルを出ずとも、食事を愉しむことができる。
チェックインしたら、まずはコーヒーパーラー「ヒルトップ」でランチ。
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ヒルトップはかなり混み合っていたので、読書しようという気にはならなかった。さっさと食事を済ませて部屋に戻り、ゆっくり本と向き合うのが良い。
また、夜になったらレストランへ食べにいくのもいいが、せっかく読書に集中しているところなので、夕飯はルームサービスで天ぷらにした。
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朝食もルームサービス。メイドさん(みたいな格好の人)が運んできてくれる。こんな多幸感のある朝はなかなか味わえない。
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もちろん、場所が神田なので食事には全く困らないけれど、どこで食べようかな?という選択にリソースを割かずに済むため、思い切ってホテルで全部済ませようという判断はかなりアリだと思う。
まあ、かなり費用は嵩むけど……。
今回の宿泊のハイライト
風呂上がりに、なんとなくテレビをつけてみた。普段はテレビを見ないので、久しぶりのことだった。たまたまプロ野球の中継が映った。
浴衣を着てソファに座り、コンビニで買ってきたコーラを飲みながら中継を見た。
そんなことは普通、自宅でもできるようなことだ。わざわざ山の上ホテルに来てまでやることか、と自分でツッコミを入れたくなる。
しかし、その時がこの合宿で一番気持ちのいい瞬間だった。
そして、それこそがこの行為の本質的な価値なのだろうと思った。
読書だって家でやろうと思えばできる。
執筆だって家でできる。
しかし、実際にはそうではない。
家にいると本は読めない。執筆もできない。
「やろうと思えば」は実はかなりアンコントローラブルな要素である。それは自分の意志外にあって、天から降りてくるのを待てども待てどもなかなかやってこないものである。
待つばかりで、「やろうと思ってるのに」という意思表明をしているだけで、当然何も始まらない。その瞬間がくるまでは私は何もしていないのだ。そして天から降りてきた時にはやるだろうと信じているので、それ以外の時は取り組みを怠っている。
何かやりたいことがあっても、その瞬間を待っている限りなかなかやってこない。だからそのタイミングを自らセッティングしてあげる必要がある。
こんなこと私が今更言うことではないけれど、いざ実際にやってみると、実感として身にしみてわかる。
そして「やろうと思ったことをやった」という経験はかなり充実感があり、気持ちがいい。家で本を読むのでは味わえない感覚だ。
何故インプット奴隷合宿をするのかと考えてみた。
私は本を読むのが好きだけれど、なかなかできずにいる。それは不思議なことだ。好きなことだからやるのではないのか。
好きだと言いつつ、本を買っては積み、しかし時間があっても本を読まない。代わりにYouTubeを見たりTwitterを見たりしている。
読書は能動的活動なので、好きとは言えど一定のハードルを越えなければならない。そのハードルはかなり低く見える。日常的に読書をしていた頃が自分にはあって、その時の感覚から言えばパンを食べるのと同じくらい容易だ。
ところが社会人になってからというもの、読書にさける時間や体力、気力のようなものが減少し、かつてのように夢中になって読書をすることが難しくなってしまった。
そして、本を買って、今日も読めなかったな、という小さな敗北が少しずつ自信をも失わせていった。
「俺は、読書できない人間になってしまったんだな……」
本の世界へ繋がっていた扉が閉ざされたような失望すら覚えた。同じような思いをしたことがある方はいないだろうか?
インプット奴隷合宿などと呼称して、大袈裟に本をたくさん持っていって、ほんの1日2日本を読むだけの取り組みは、こうして失われていった読書に対する自尊心を回復させるきっかけにもなったと感じる。
大人になってからは、好きなことへの積極的な歩み寄りが必要なのかもしれない。
山の上ホテルでの読書体験は、今年トップクラスの刺激になった。
仕事の疲れも癒せたし、食事も美味しいし、読書も楽しめた。
観光となるとプランニングやら予約やら手間がかかるところもあるが、本を読むだけだからとにかくお手軽なのも良いポイントだ。
今度はどこでインプット奴隷合宿をしようかな、と考えている。
考えるだけでも楽しい。
考えるだけで楽しいことが増えるってすごく良い。