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カラサキ・アユミ 連載「本を包む」 第16回 「バリケードか、ブックカバーか」

 ブックカバーのことを、古い言葉で「書皮しょひ」と言う。書籍を包むから「書」に「皮」で「書皮」。普通はすぐに捨てられてしまう書皮だが、世の中にはそれを蒐集しゅうしゅうする人たちがいる。
 連載「本を包む」では、古本愛好者のカラサキ・アユミさんに書皮コレクションを紹介してもらいつつ、エッセーを添えてもらう。

 大学生といえば「きらめき、若さ、自由」というのほほん・・・・としたイメージが浮かぶが(この一文によって私が学生時代いかに遊びに勤しんでいたかがお分かりいただけるだろう)、このブックカバーに描かれた大学生達からはエネルギッシュな空気がかもされている。

 全国大学生活協同組合連合会(全国大学生協連)の創立は1958年。つまり創立10周年を記念して刷られたこのブックカバーは1967年~68年に使用されたことになる。そう、学生運動の時期と重なるのだ。

 なるほど、キリッと鋭い目で前を見据えて、本を小脇に抱えたり手に持ったりして歩く男女の姿から〝強さ〟を彷彿ほうふつとさせられたのは偶然ではなかった。ここに描かれた人々も、ブックカバーに包まれた本を置き、バリケード・ストライキに参加したのだろうか……。

 調べるとどうやら大学には必ずしも生協がある訳では無いらしい。確かに私が通っていた大学には生協は無かった。構内には菓子パンやら文房具やらが並ぶ取り立てて個性も無い小さな売店があったのみ。私は併設されていた丸善の出張販売所に足繁く通い、「何かないか……新たな発見はないか……」と、こじんまりとしたスペースに並べられた本達をいつも飢えた目でチェックしていた。

 そんな私が初めて生協というものを知った思い出の場所は京都大学のキャンパスだ。当時親しくしていた友人が京大生で、吉田キャンパスの目の前のアパートに下宿していたというのもあり、京都に出向いた際は休憩がてらよく立ち寄らせてもらっていた。

 ある時「食堂行こうよ」と誘われて初めて京都大学生協が運営する西部せいぶ会館ルネに赴いた。そして食後に立ち寄った階下のショップルネの書籍コーナーで衝撃を受けたのである。

 もはや立派な書店ではないか……! そのスペースの広さ、陳列された本の量、ポップまで面白い。フロアは本を物色する学生たちで溢れていた。

「す、す、す、すごい! これが生協ワールドか!」と興奮する私の様子を、「これが日常風景ですけど何か?」と言わんばかりに隣で眺めていた友人の涼しげな表情が未だに忘れられない。私が大学生になって初めて味わった嫉妬体験でもあった。

 かつて一部の大学生協は学生運動と一体化していたそうだが、現在の全国大学生協連のサイトには読書の情報を発信した季刊『読書のいずみ』(WEB版)を始めとした読書推進企画の記事が豊富に載っており、本と共に歩むキャンパスライフが提唱されているように見える。このブックカバーを手にしたきっかけでそのサイトを知ったのだが、眺めてみるとこれがなかなか面白いのだ。

 思えば、私にとって大学時代は人生で一番好奇心を携えていたであろう時期で、かつ刺激を吸収したい欲に駆られていた時期だった。この頃に出会った本達からは本当に沢山の影響を受けたし、きっとこの先、歳を重ねていった後もそれは残り続けていくのだろう。

「あぁ、でも、今の思考を持った状態でもう一度学生の頃に戻ってみたいなぁ……」

 誰しもが一度は考えたであろう妄想を繰り広げながらブックカバーをファイルに仕舞った。本を読むわけではなく、小脇に抱えたり手に持ったりして、キリッと前方を見つめて歩く男女……。ふと、若い頃に学生運動に奔走した人々の〝今〟を想像した。彼ら彼女らの目は、今も変わらず鋭いのだろうか。


文・イラスト・写真/カラサキ・アユミ
1988年、福岡県北九州市生まれ。幼少期から古本愛好者としての人生を歩み始める。奈良大学文学部文化財学科を卒業後、ファッションブランド「コム・デ・ギャルソン」の販売員として働く。その後、愛する古本を題材にした執筆活動を始める。
海と山に囲まれた古い一軒家に暮らし、家の中は古本だらけ。古本に関心のない夫の冷ややかな視線を日々感じながらも……古本はひたすら増えていくばかり。ゆくゆくは古本専用の別邸を構えることを夢想する。現在は子育ての隙間時間で古本を漁っている。著書に古本愛溢れ出る4コマ漫画とエッセーを収録した『古本乙女の日々是口実』(皓星社)がある。

筆者近影

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